二階の廊下。硝子窓を隔てた校庭側から、ボールを打ち返す甲高い金属音がしたと思えば遅れて歓声も聞こえてきた。音につられ校庭を見れば駆ける運動部の姿がある。たった一枚の窓を隔てただけなのに、軽快に揺れる体操服が幻のように見える。
彼等のように心から打ち込めるモノが思い浮かばない凌牙は熱心な部活動光景に目を細めた。

「運動部ってのは祝日も返上なのか」

「ん?ああ、野球部はもうそろそろ大会があるからな」

半歩前を歩くカイトへ問えば、凌牙に倣うように窓越しの校庭を見つめながら頷かれた。
野球部以外の部活は休みになったらしい、と続けられた言葉に凌牙はそうか、と受け返すと同時に二人しかいない校舎内の雰囲気に心底安堵する。

ガラス窓を通して廊下に落ちる穏やかな斜光。教室側は突き当たりまで全てのドアが閉められていて静謐を保っている。廊下に広く光が入り込むので、カイトに先導され歩く先は凌牙の記憶よりもずっと明るく見えた。

靴音とぱたぱたと鳴るスリッパの音が良く聞き取れるくらいに静かな校内。階段が見えてくると、カイトが振り返りあの階段をもう一階上る、と言う。

「俺達のクラスはこっち側の階段を上がってすぐの教室だ」

「……ああ」

多少暗くなった階段を上がった先には三年の教室があった。一度も足を踏み入れたことの無い領域へ、くん、とカイトに腕を引かれ呆気なく教室前の廊下との境目を越えた。

「お、い……っ!天城!」

「強張った顔をするなら思い切った方がいいだろう」

制止の声も愉しげな声に流され、カイトの手に引かれてつんのめりそうになりながらも、歩く速度は変わってはくれない。
教室を一つ越え漸くカイトの歩みが止んだ。

「着いたぞ」

「……」

カラカラとスライドされたドアが開く。
音の無い、静かな室内と整然と並んだ机と椅子。
二人だけで踏み込んだ其処は、時間が止まった錯覚すら起こしそうな別世界に映った。


 

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