猫耳プレイ
「たまには趣向を変えてみるのはどうだろうか」
にたり、と口角を吊り上げ、それはそれは愉しげにカイトはベッドに縫い付けた凌牙を見下ろし、言い放った。
なんて悪どい表情だ、と内心後退りをしたい気持ちになるが、悲しいかな凌牙の身体の自由はカイトによって封じられている。
「知るか。アブノーマルに走る気はねぇよ」
となれば、自由に動く口だけが通常の倍ほど罵倒混じりの言葉を吐いた。押し倒されるまでの甘ったるいような気恥ずかしいような気分はどこへやら、じとりと睨み付けた先には獰猛に目を輝かせる姿があって。罵倒を言ったところで、ほう?と首を捻る加虐的なスイッチの入ってしまったカイトには適いそうにないと直感的に気付く。
ジャケットを脱がされ、手を絡め取られ、マウントポジションを当然の如く奪われ、更にはするりとカイトの唇が落ちてくるこの現状から凌牙が逃げる道などなかった。
「っ、カイ、ト、てめっ……んんっ!」
「……っは、お前の言い訳は必要ない。お前はいつも通りに、一生懸命に啼いていればいい」
深く凌牙の口を塞ぐ事を中断しカイトは低い声で笑いながら、快楽に震える凌牙の耳元へと唇を寄せる。
確実に理性を溶かされつつある凌牙はキスから解放され酸素を確保するだけで精一杯であったし、これまでの情事で覚えてしまった癖なのか両腕はカイトの背に回っていて快楽を享受する事にいっぱいいっぱいで、カイトの腕がベッドサイドテーブルの引き出しに伸びていたのに気付くわけがない。
「な、ひっ!」
生温いカイトの吐息と歯が、凌牙の耳朶に触れて、やんわりと食んだ。びくり、と突然の感覚に敏感に反応を返してしまえば、矢張り耳元でカイトが笑う。
「ほら、凌牙。――随分愛らしくなったぞ」
「うあ、な、に……?」
自慢げに言うカイトが凌牙の片手を掴み、紫紺の髪の間に付けたふわりとした手触りの物に触れさせた。
潤ませ赤く染まる目元が微かに震え、水の膜が張った眸は自身の頭に付いた物が何なのかと疑問を映す。
「趣向を変えてみるかと言っただろう。試しに着けてやったが、……中々、いいな」
「何、したんだよ」
「触れればわかるだろう?」
「……ねこ、か?」
ぬいぐるみのような手触りの三角形、つんと尖った先端。それが間隔を空けて左右に一つずつ付いたカチューシャ。
漸くカイトの言う趣向変えの意味が解りはしたが、凌牙はこの後どうしたらいいのかと眉を寄せた。
「にゃあ、とでも言えば、いいのかよ」
「それは最中に良く口走っているだろう。……そうだな、啼く回数でも増やしてもらおうか」
「!――は、んっ」
心底愉しそうなカイトに、また口を深く塞がれてしまう。互いの唾液が立てる音に耐え切れず目を瞑れば、それを待っていたかのようにカイトの手が凌牙のベルトを引き抜きスラックスをおろした。
「ひ、にゃ、っやだ、かいと! も、見るなぁ……!」
「何故だ?こんなにお前の躯は俺の餌が欲しいと強請っているのに」
「――っ」
仔猫を甘やかすより甘く、猫には向けない欲情を孕んだ手つきで、上も下もカイトによってぐちゃぐちゃにされていく。
潤滑油で溶かされた後ろが疼き、ピリリッとゴムの封を切る音に、期待と渇望で気が狂いそうになる。趣向を変えても最終目的は同じなのだが、凌牙の中で『自分はカイトの猫』という暗示がより強く快楽を引き出していた。その所為か、疼きが焦れったく感じて仕方ない。
「かいと、」
「なんだ――」
くい、と小さくカイトの髪を引っ張り、蠱惑的に凌牙は熱い吐息を溢した。半開きの口元から覗く赤い舌に、カイトは思わず見惚れてしまう。
「ノって、やるよ。俺を、一晩、飼ってもいいぜ」
「っ」
「おい、かい、っひあ、ああ!?」
煽るお前が悪い。自業自得だ、と言ったかと思えば理性の糸が焼き切れたカイトが唐突に挿入をし、凌牙はあられもない声を洩らした。その鳴き声を聞くと、満足そうにカイトは凌牙の目尻に口付けを落としていく。
「っ、まったく、挑発的な猫だな」
快楽にとろけた嬌声に、灰色の目を細めて愉しくて仕方がないという表情になってしまう。
無意識に背に爪を立ていやいやと首を振ってくる凌牙の姿に、カイトは意地悪く彼の口を塞いでやった。