眼前の男が悪どい笑みを湛えたまま伸し掛かってくる。抵抗しようにもどこにそんな力があるのか両手は既に掴まれ指先しか動かせず、と言うよりも真上から押し倒す体勢を強いられたら抵抗も何もない。
俺が悔しげに顔を歪めたのが余程嬉しかったらしく、悪辣さが更に深まった。実に厭な性格をしている。

「テメェ……カイト、離せよ」

「別にいいだろう」

「何一つよくねェ!」

こんな程度で俺が引いてしまえば、組み敷いてるカイトの思うがままだ。それだけはなんとしてでも阻止しなければならない。
阻止しなければいけない理由? 簡単だ、抵抗を諦めれば目の前の物好きに、

「少し抱くだけだろう?安心しろ病み付きになるくらいにじっくり仕込んでやるさ」

「はあ?余計な世話だッ、大体俺はテメェなんかと――んぅッ」

……流されるままに喰われてしまうからに決まってる。否、抵抗しても結果は同じなのかもしれない、と唇を塞がれた辺りでそんな考えが過った。

「っ、んあ、んッ……く、るし……」

「ん、ああ……凌牙、腰が揺れてる」

唇を割ってカイトの舌が俺の口腔を好き勝手に触られ、不愉快さが避けきれない快楽に変わる。苦しい、と出た自分の声が驚くほどに女々しくて男としての自尊心諸々が壊れていく。
……なんでコイツ、こんなテクニックばかり無駄に巧いんだ?

くちゅ、と唾液の生々しい音が暫く絡み合い、俺が羞恥で熱に浮かされてきた頃に、仕掛けてきた方のカイトが低い笑いを残しキスを止めた。
仕上げだと、離れる寸前に唾液で濡れた奴の歯が俺の下唇をゆっくりはんでいった。

「ほら、イイんじゃないか」

「っ」

くつり。喉で笑うカイトがこの時ばかりは性欲を晒け出し余裕のない顔を見せる。白い指先を、脇腹から意地の悪い動きで尾てい骨へと滑らせてくる。ひくり、と躯が跳ねてしまうのが屈辱的で……しかし、不本意にも、カイトの熱を甘受してしまいたいと抵抗自体を投げ出し掛けている自分がいた。
嫌だとか止めろと思う余裕もどこかへ消えてしまう。

「なあ。どうしたい、凌牙」

「っ今更、俺に訊くのかよ……」

無意識に顔を顰め、荒くなった息を整える。どうしたいだと?そんなのカイト自身がよく知っているだろうが。それとも俺に、強請れと、言わせたいのか、この野郎は……!
声が行き詰まる。何度か逡巡をすれば頭上からクッと笑われた。元はと言えばコイツが元凶だというのに。睨んだ先の男は精巧なパーツの一つである口元を吊り上げた。

「いや、聞く気はない。応えなんて分かり切っているだろ?」

そうしてカイトが俺の唇に噛み付いた。




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