「難しいな……」

屋敷の自室にて、Wはひとりごちながら倒れこむ様に自身のベッドへ沈む。
極東チャンピオンだの、ファンサービス精神溢れる紳士だの、彼を讃える声は尽きない。……のだが、如何せんW本人のプライベートでの顔は、サディストな一面と口の悪さが目立つ性格なのだ。
兄も弟も、そんなWの性格には苦笑を禁じ得ない。だが父親は、そうしたWを愛情の籠った目で見ている。

『トーマスは、意外と不器用な子だね』

屋敷へ家族でまた住めるようになった折に、外見が幼くなった父親がそうWに言ったのを思い出した。
あの時はそんなことない、と流したが、内心では否定を出来ない自分がいた。
そう、不器用なのだ。どうしようもないほどに。

「凌牙」

Wが悩む原因となっている少年の名前を口にした途端、心の底を何かの感情がじわりと広がった気がした。
彼は、Wにとってライバルであり気兼ねなく話せる数少ない人間だ。家族の前での口の悪さが凌牙を前にしても出てしまう程に、凌牙が相手となるとWは猫かぶりがなくなる。
それは、Wにとって特別な事だ。元々、Wは家族以外の人間に興味が薄い性格の持ち主だった。例えるなら、平等だの博愛だのが、まるで理解が出来ないくらいに。

Wの愛情は家族という括りの中にいる、兄弟と父親にだけ向いていた……はずたった。

それが何時からか。緩やかな坂を下る様に、ゆっくりとWは凌牙へ一種の愛情を向けていた。

「はぁ、また凌牙とデュエルしてぇ」

話もしたいし、あの美しい双眸に自分だけを映させたい。
考え出したら、溢れて止まらなくなる。
重症だと、W自身が理解出来るほどに凌牙へ注がれる想いは、多くの感情を含んでいるのだった。

しかし。彼が思う事とは裏腹に、元来意地の悪いWの性格も相乗し件の凌牙には多くの感情が驚くくらい伝わっていない。どれ程かと例えるなら、あの父親が引き笑いをよこす程度だ。
好かれたいと思うのは、いけない事なのか。

消極的になる一方で、ぐらぐらと複雑に絡む混乱寸前の思考は一つの打開案を思い付く。

自分を知って貰うには、傍で見てもらう事が一番ではないか。
ー―そうだ。凌牙を家族に引き入れてしまえばいい、と。

「あー、凌牙か?実は折り入って頼みがあるんだが……」

善は急げ。そうと決めたらWは素早かった。
Dパッドから凌牙へとコールをして、真剣な声音で話を切り出す。

「……俺と、家族にならないか」

は?と声が上がり、立体モニターに映る深海色の両目が大きく見開かれている。それから、稍あって、画面向こうの凌牙の白い頬がじわじわと桜色に色付く。


「お前の事、大切にするから……なあ、家族になってくれよ」

自分がとんでもない発言をしたと気付くのは、Wがしっかりと凌牙への恋心に気づいてからだった。
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