親方ァ!空から美少年が!なノリで読んでください。





カイトは眉間に皺を深く刻みながら自身のベッドを見下ろす。彼の隣にそっと並んだオービタル7はベッドの中身とカイトを交互に見やり、一人落ち着きなく首を動かしていた。


時は少しまき戻る。

この日、ハートランドシティの夜空には流星群による光の雨が降ると世間を微かに盛り上げていた。日をまたぎ夜明けまで、光の筋が一時間に何十と流れるらしく、ニュースでも報じられもしていた。それを見たハルトが流星群を見てみたいとカイトにお願いをしてきたのが、切っ掛けの一つだろう。

見るならば窓越しにではない一面の夜空見せてやるべきか、と考えたカイトはオービタル7に至急ハートの塔の上部を展開し夜空を直に見れるようにしろと難問を押し付けたのだ。その命令は難問ではあったが、無理ではなく。オービタル7は「カシコマリ!」の一返事で建物の構造電子回路を組み替えた。ハートの部分の外郭の構造、つまりはハルトの部屋を天井から開く形に変える事は中々大変だったが、天城兄弟の為ならば苦ではないのだ。
二人が兄弟らしく天体観測をしてくれるのならばやるしかない。オービタル7は難問を押し付けられようと、天城兄弟の事が大好きなのだった。

そうして有能なオービタル7の活躍により、出来上がった一面の夜空は兄弟にとても喜ばれた。ハルトは瞳をきらきらとさせ、カイトが珍しく礼を言ったのだ。オービタル7は一人変な笑い声を出し舞踊っていた。

花びらの如く天辺が開かれたハートの塔は、シティで一番かもしれない流星群観測場所に早変わりした。星空に手が届くのではないかというくらい、星の輝きが一つ一つ良く見える。
ハルトが風邪をひかないようにと、カイトは長袖のセーターに上掛けを着せホットココアを渡し、そして二人揃って夜空を見上げた。

「んー。流れ星、流れないね」

「流れ始めるまであと数十分ほどあるからな。少し寒いかもしれないが、暗闇に目をならしておくと、流れ星をはっきりみれるぞ」

「沢山見れるかな?」

「ああ、勿論さ」

いくつかの星の名前を指差しつつハルトへ教える。
ここから見えるのは小さな銀河。カイトが愛する美しい竜が冠する名も同じ銀河だ。

「ねえ、兄さん。流れ星が流れたらお願いを言うんだよね?」

「あれか。流れている間に三回言えると願い事が叶うらしいが」

「三回?僕、早口言葉苦手……」

「なら心の中で言えばいい。それでも三回はキツいなら、ハルトが一回、俺が二回唱える事にしようか」

はんぶんこだ、と笑うハルトにカイトも微かに笑んだ。

「どんな願いがいいんだ?」

「うん、あのね。皆が幸せでいられますように、って」

「ハルトは優しいな。わかったよ」

ありふれた、けれど優しくハルトらしい願い事にカイトは自信たっぷりに頷く。
そろそろ流星が流れるだろうと、銀河に散る沢山の光子へとカイトは視線を上へ向けた。
すると、待っていたとばかりに一瞬チカリと夜空の星がない空間が輝く。隣でハルトがあ、と小さく声を溢したのが分かった。その瞬間には、白く美しい線が暗い夜空を水滴の様に零れ落ちていく。

「お願いしたよ、兄さん!」

「ああ、俺も出来たよ」

一秒程の、僅かな時間、星が流れた。

「……皆が幸せでいられますように、か」

心の中で唱え終えた願いを、カイトは確かめるように音に出した。
幸せとは人それぞれだろう。遊馬はデュエルが出来れば満足そうであるし、ドロワやゴーシュはデュエルを通し多くの子供と触れ合える機会に充実感を持っていた。クリスは家族と過ごす事が幸せだと笑っていて。

……そこでふと、凌牙の事が浮かんだ。アイツの、幸せ。
妹といる凌牙を何度か見掛けたが、幸せそうに見えるも、ほんの一瞬凌牙の顔が苦しげに歪めた事があった。
もしかすると彼は長く入院していた妹に対し、僅かながら罪悪感を持っているのではないかと考えてしまう。
叶うかは分からないが、ハルトとカイトが願ったのだ。幸せになるべきだと、少しだけ凌牙に重点を置きつつ空を仰いだ。


――そして変化は突如、訪れる。

「カ、カイトサマ! 上空カラエネルギー計測不可能ノ次元ノ亀裂ガ!」

「なっ!」

「ヌァ!? 何カ、オ、落ッコッテキマス!」

ハルトを自身の背後に隠し、目を見開き星空を見たカイトの視界に映ったのは、重力に従って落ちてくる人のような、何か。
オービタルが慌てて落下物が人であると告げる。あの高さからの地面へ落下など、助かる筈がない。そうと判断したカイトは、オービタルを即座に飛行モードに切り替え、夜空を飛んだ。

「兄さん!」

「ハルト?」

「僕ここで待ってるしかできないけど、お願い助けてあげて……!」

弟のハラハラとした姿に、兄は真剣な眼差しで首を縦に振る。
高度を上げ、落下する人がカイトの真横を通り落ちた瞬間を狙うと、彼も一気に降下し落下する人間と並び、落ち行くそれを夜の冷たい風ごとカイトは抱き止める。その光景はまるで鷲が急降下から獲物を捕えるかのような様だった。

「カ、カイトサマ……」

「大丈夫だ。気絶しているがきちんと息をしている」

オービタル7の不安そうな声をカイトが遮る。
風の音が強く吹き付ける中、両腕で抱え込んだ存在は確かに人だ。それもカイトより少し小柄で、軽い。
紺地のダッフルコートとぐるぐるに巻かれたマフラーの所為で顔と性別の判断ができないまま、オービタル7の飛行モードでカイトはハルトが待つ塔の最上階の場所へ帰還する。

「お帰りなさい!……落ちてきた人は……」

「気を失っているだけだよ。取り敢えず寝かせて他に怪我はないか診ないといけない。 だが……すまないハルト、天体観測は今日は出来なくなってしまいそうだ」

「ううん。流れ星見れたしお願い事も兄さんと出来たから、僕は楽しかったよ。 それよりその人を助けないと!」

開いていたハートの部屋を元に戻すと、ハルトに急かされ最上階の直ぐ近くにあるカイトの部屋のベッドへ、コートやマフラーでもこもこした空からの落とし者をそっと横たえた。
外傷の有無を診るためにも、コートとマフラーは邪魔になる。
オービタル7がせかせかとコートを脱がしてマフラーを外した所で、おかしな機械音声が悲鳴を上げた。

「ギャア! カカカ、カイトサマー!」

「どうした!まさか敵か!?――な、」

マフラーに深く埋もれていた落とし者の素顔が、まばゆい人口灯の下に曝されていた。その素顔に、カイトは目を瞠る。

「凌牙……か?」

桔梗色の髪に、特徴的な前髪と外跳ねの癖毛。
目は閉じられているが静かに息をする彼の姿は見間違いようがない、カイトの知る神代凌牙だったのだ。


そして冒頭に繋がる。

何故、凌牙が突如現れた空の裂け目から落ちてきたのか。一体彼の身に何が起こったのか。
謎は数多くあった。
コートから出てきた、何処かの鍵と見慣れない通信端末、そして凌牙のものらしいデッキケース。ナンバーズ絡みでは、と思いコートに入っていたデッキケースを心の中で謝りながら開けたが、中身はエクストラデッキがそっくり抜け落ちた水属性のデッキだけだった。

流石に個人情報の詰まった通信端末を覗き見するわけにもいかず、カイトは渋々目の前の凌牙が目を覚ますまで思考を巡らしていた。

「ん……っ」

「!」

不意に横たえた華奢な身体が、うめき声と共にもぞもぞと動く。はっと凌牙の顔を覗き込むと、睫毛が震えゆっくりと彼の双眼が開かれ深海を思わせる瞳がカイトを捕らえる。

「おい、凌牙?」

「あ、?……お前、誰だよ」

訝しげに、どこか不安そうに。目覚めた凌牙の口から思いもよらない言葉が放たれる。

「俺を忘れたのか」

「……忘れた? いや、初対面だろ。アンタみたいな整った顔した奴を俺は知らねェし」

「どういう、ことだ……」

嘘を吐いているとは思えない真剣な眼差しで凌牙の口から出た言葉に、カイトは今度こそ困惑に頭を抱えた。

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