アニメ本編で神代ツインズ喧嘩回辺り妄想/気持ちドル→凌





最近同じような夢をほぼ毎日と言って良い頻度でみる。

内容はと言えば細部まで覚えていないが、毎回同じ人物と凌牙自身が親しく会話をしているというものだ。

海を見て話している時もあれば、石造りの開けた部屋であったり空を仰いで話している時もある。どの夢も静謐な心地のいい空気が流れる中での会話で、こんな時間がずっと続けばいいのに、と凌牙は夢の中で柄にもなく願ってしまう。
だがそう願うと、いつも決まって夢は覚めてしまうのだ。その所為か、最近の凌牙の朝は酷い喪失感から始まっていた。

「あら。おはよう、凌牙」

「ああ……」

部屋で着替えを済ませ、リビングへ行くと今日も璃緒は目を丸くさせながら挨拶をしてくる。カチャカチャと手際よく朝食が乗る食器をテーブルに運ぶと、欠伸を噛み殺し席に座る凌牙を矢張り不思議そうなモノを見る目で見てきた。

「……何だよジロジロと」

「だって!ここ最近凌牙が時間通りに起きてくるなんて珍しいなあ、って思ってるの!」

びしっ、と人差し指で凌牙を差すオプション付きで璃緒はパンを噛る。
魚でも降ってくるのかしら?という妹のからかいに大きな溜め息を吐いた。
眠りの淵から覚めれば朝なのだ嫌でも規則的な起床になる、と思いながら理由を問いたげな璃緒からの視線に耐え切れず、凌牙はがしがしと髪を乱暴に掻き上げた。


夢を見る彼自身、中途半端に終わってしまう夢はここ最近で消化できないまま増幅するストレスに変わっていた。

「最近、夢見が悪いんだよ。……名前も解らないが、仲が良いらしい奴と毎回話している夢ばかり見て、それが中途半端に途切れて起きるんだ」

カップに口を付けながら、蓄積した悩みの種である夢を切り出すと璃緒は興味津々といった目になり凌牙を見てくる。

「同じ人なの?」

「ああ、同じ奴だ」

声からして自分そう年の変わらない男だと言うくらいしか解らない。
あと思い出せるのは、柔らかな灰色の髪に、優しい色を湛えた瞳、翻る白地のマント。そう言えば、何時も彼の傍らには純白の馬がいた気がする。
覚えている点をいくつか上げるが、矢張り現実で会った記憶は無かった。

「へぇ、不思議ね。現実では面識もない知らない人と、夢で凌牙と仲が良いなんて」

そう茶化す璃緒をうるせぇと軽くいなし、話の先を訴える妹の目に辟易となりながら凌牙は思い返し言葉を選ぶ。

「あー……、色々話すんだが、声も会話の内容も思い出せないんだがな」

「でも、その人の事だけは忘れていないんでしょう?」

「ああ…」

肯定を返す兄に、妹は優しく目を細めて笑ってみせる。殆どの夢は中々どうしてか忘れやすいものだ。覚めた直後は強く記憶に残るのに、完全に目が覚めてしまうと大方の内容は砂のようにさらさらと零れていく。

だが、凌牙は随分と相手の事だけは強く記憶しているのだ。まるで、深層心理が忘れまいと脳裏に刻み込んでいるかのように。

「ねぇ、凌牙。それって、凌牙が心の何処かで忘れたくないって思っているからよ」

「は?なんでだ」

眉間に皺を作る凌牙をくすくすと笑い、璃緒はティースプーンでカップの中身をくるりと混ぜた。甘いココアの香りが鼻腔を擽る。

「そうね、例えるならその彼に焦がれているように見えたからかしら。話を聞いてて、何となくそう思えるわ。……まるで、恋でもしてるみたいに」

「――っ」

璃緒の言葉に凌牙は言い返す言葉が見付からなかった。開きかけた口を静かに閉じ、細部がかすれかけている夢の事をなんとか思い返す。

優しい声だった気がする。
穏やかで大切な時間。
慈愛に満ちた目をする彼と二人きりで笑いあう事がとても嬉しく思えて。


「……そうかもな」

凌牙の口から零れたのは、静かな肯定の音だった。
夢での話し相手に抱いているものが親愛か友愛か恋愛か、当て嵌まるカテゴライズは出来ないが、それでいい気がした。

『――友よ。私は君に逢えた事を心の底から幸福だと思うんだ』

『そう、か』

『ああ。――さて、次は何を話そうか?』

夢の中の自分たちはとても幸せそうに笑っているのだから。



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