卓上で繰り広げられるデュエルはいよいよ佳境だった。互いに一歩も譲らぬ攻防が繰り広げられ、ライフポイントも半分以下になりながらもカイトが僅かに上回っているといえど、戦略を見抜かれてしまえばあっという間に逆転されてしまうだろう。

普通ならば焦りを感じる所だが、不思議と今はとても楽しかった。それは恐らく何の柵もなく、こうしてデュエルに興じることが出来るのが久しぶりだったからだろう。何かを賭けるわけでもなく、ただただお互いの力量を見せ合う一戦。純粋な策のぶつけ合い。

そして何よりも、相手はカイトの思考力を上げさせるだけの腕をもっている……本気を出さずにはいられないデュエル。

「俺は、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

「その顔……万策尽きたようだな、凌牙」

「さあ、どうだかな」

藍色の双眸を細め、カイトを熱くさせる相手である凌牙は小さく口元を吊り上げる。

カイト宅へ泊まり掛けでこうして手合わせをしている訳だが、風呂上がりの一杯ならぬ一戦。
微かに湿っている髪に加え凌牙のその笑みは、カイトの理性を切りそうな妖艶さがあった。

「――俺のターン」

ターンが凌牙からカイトへ移る。邪な考えを吹っ切るように山札へと指をあて、カードを引こうとした瞬間。コン、とドアが控え目に叩かれた。

「ん?」

「誰だ?俺は起きているぞ」

「……にいさん」

二人して音の方を注視すると、ドアを隔てた向こうから控えめな声が響いてきた。

「ハルト?」

その聞き慣れた弟の声に山札に掛けた指を止め、カイトは席を立ちそっと扉を開く。ドアの外には、薄暗い廊下を背に半分眠ったままのハルトがぽつんと立っていた。
部屋の灯りが眩しいのか目を擦りながらカイトを見上げる。

「どうしたんだ?」

「ん……、トイレのかえりなんだけど、兄さんの部屋から灯りが洩れてて、どうしたのかなぁって」

柔らかくカイトが声をかけると、小さな弟は眠そうに首をこっくりさせながら、「凌牙とデュエルしていたんだね」と笑い再度目を擦る。

「ふふ。兄さんが眠れないんじゃないかって、心配しちゃった」

「余計な心配を掛けてすまないな、ハルト。熱中し過ぎて夜更かししていたんだ」

「うん、そうみたいだね。僕もう部屋に戻るから……兄さん、凌牙、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

「おやすみ、ハルト」

兄弟のやり取りを見届け、凌牙は部屋に戻るハルトに小さく手を振った。嬉しそうにハルトは振り返し、ゆっくりと扉は閉まる。
ハルトに言われ、ふと壁に掛かる時計を見ると日付を跨いで数時間が経っていた。風呂に入った時刻が遅かったのもあり、時間感覚がずれていた様だ。

「もうこんな時間か」

「道理で妙に思考が鈍くなったりする訳だ……これじゃあ納得のいくデュエルが出来ねぇな」

時刻に気付いてから、眠気が襲ってきたのか凌牙は猫のような欠伸を溢す。
デュエルシート上のカードはそのままにして手札を卓上に置くと、カイトは眠たげな凌牙の髪をくしゃりと撫でた。

「俺もお前とのデュエルは万全な状態で挑みたいからな。……もう寝るか」

「ん」

本格的に眠いようだ。普段なら叩き落とされるだろう髪を撫でる手を咎める事無く、心地よさげに享受している凌牙の姿をみると悪戯心が芽生える。
泊まり用にと隣の部屋を凌牙に貸しているが、この様子ならば。

「寝たいのなら眠らなければ、成長期が逃げるぞ」

「うるせ……てめぇにだけは言われたくない」

「ふん、そうか」

「ああ」

髪を撫でるのを止め、席を立つ。立てるか、と訊けばだいじょうぶだ、とぼんやりとした声で返された。
集中が切れた反動は想像以上に凌牙を眠りの淵に引き込んでいるようだ。

「凌牙、」

「あ、? かいと?」

「隣室まで行くのは億劫だろう?俺の隣なら空けてやるぞ」

くい、と凌牙の手を引き、カイトは凌牙を自らのベッドへ押し込む。抵抗は予想通りに無く、逆に弾力とシーツの心地好さに凌牙はもそもそとカイトのベッドに潜り込んでいく始末だ。
子供か、と笑いを溢せば凌牙の白い指先がカイトのシャツの裾を引いてきた。

「寝ないの、かよ」

「フ、いいのか?」

「……おまえの、寝床だろ」

眠たそうに添い寝を所望されれば断るはずがない。そもそも共に寝ようと考えていたのだから願ったり叶ったりだ。
凌牙の隣に身を潜り込ませると、安心したように凌牙の身体から力が抜けるのが分かった。……隣で眠るのが捕食者である狼かもしれないのに、この鮫の皮を被った被食者な青年はすっかりそんな事実を忘れている。

「でっけぇ抱き枕」

「……抱き締めて寝るのは俺だがな」

擦り寄る凌牙の背に腕を回し、そろりと撫でる。
もっと、と催促するように身体を寄せる凌牙の額にカイトは楽しげに唇を寄せ、おやすみと囁く。

そうしてやれば、凌牙が微かに笑ったような気がした。




きっと朝にデュエル(性的な意味で)するコース
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