ドル凌練習/学生パラレル





放課を知らせる鐘が随分前に鳴った頃。ブラインドの隅から漏れる西日が一層赤さを映す図書室の中は、とても静かな空間を保っていた。

「また本の虫になってるのかよ」

そんな時。キシ、と隣の椅子が引かれ菖蒲色の少年が当たり前の様にそこへ座る。つまらなさげなその声に、ドルベは視線を文字の羅列から少年へと移した。
隣で猫のように背をのばしている少年はドルベの視線に気付くと不思議そうに目を瞬かせる。まるで自分の声に気付かれたのが意外だと言いたげなくらいに。

「熱中、してなかったのか?」

「していたが、凌牙が来た時に丁度読みおわった」

ぱたん、とハードカバーの表紙を閉じてしまえば、ドルベの見るものは隣に座る少年、凌牙以外に無くなる。
学園一の不良だのと密かに噂されている凌牙だが、実際は喧嘩好きでもなければ誰構わず迷惑をかける性格でもない。寧ろ、本質は真面目で不器用なだけなのだとドルベは解釈している。不良だと囁かれているのは、おそらく口が多少悪いのと素直さが言葉で表せないのが原因だろう。

図書室まで私を迎えに来たのか?と訊けば紫の瞳に、羞恥が走る。ほら、百聞は一見に如かずとはこの事だ。

「な、別に、そんなんじゃねェよ!」

「凌牙」

「っ?」

再度口を開こうとした彼の唇へドルベが、つ、と人差し指を押しあてる。途端に声を詰まらせる彼の姿はさながらイケナイ事がばれてしまった子供のようだ。

「図書室では、静かに」

指先から凌牙の温い体温を感じながら、ドルベはそっと凌牙へ耳打ちをして笑う。それを聞いた途端、凌牙は羞恥を堪えるようにぐっと押し黙る。
纏う空気さえ大人しくさせてしまえば、ドルベは人差し指を凌牙の唇から離して目元を緩めた。

「はは」

「……笑うなよ」

「すまない。君は意外とシャイなんだなと思っていたらつい」

すると凌牙にすぐ睨まれるが、ドルベの眼鏡の奥の眸は穏やかに笑んだままだ。
彼が本気で怒っていない事は、ドルベはあっさりと理解していた。凌牙も凌牙で、暫らく睨んでいたが効果が無いとわかってしまえば、顔を顰めて机に突っ伏す。

「……。何読んでたんだ」

くぐもった声で凌牙が尋ねる。ごそごそと身体を動かし、突っ伏すのにしっくりくる位置を探す姿は何処か年相応の少年らしさが漂う。

「ミステリー小説だな」

彼の問い掛けに、ハードカバーに印刷された題名をなぞりながら答えれば、ちらりと腕の隙間から紫の眸がこちらを見た。

「へえ。面白かったかよ」

「途中で犯人が解ってしまったからそこそこだな」

内容を振り返りドルベ自身の評価を述べると、凌牙はふうん、とさして興味なさそうに返答を返す。
お前の読解力には作者も真っ青だな、と言う言葉を聞き、ドルベはそうでもないだろう、と投げ返し椅子にゆったり腰掛ける。

「本の登場人物の心情を知るよりも、私は手を伸ばせば触れられるだろう君の心情を理解する方が難解であって……重要だとも思えた。本を読んでいると、何時もそのことを思い出させられる」

そうドルベが言い切ると、隣の気配がぴたりと固まった。
十中八九、照れているのだ。何せ、伏せる顔の表情はわからなくとも、耳まで赤らめてくれているのだから。

「……。凌牙、遠回しに君への愛情表現を言ってみたんだが」

「うぜーよ……聞こえてるっての」

「そうか、なら良かった」

耳の熱を引かせないまま、凌牙は小さく唸る。言い返す言葉が見付からないのがもどかしいようだ。
対して、ドルベは至極満たされた顔で頷き、何も言わなくなった凌牙の髪をくしゃりと撫でた。




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