真っ青な空には巨大な積乱雲が形成されつつあった。白と灰色がのっそりと手を広げ、やがて降りだす夕立を誘う。
タイルを敷き詰めた歩道は夏の日差しを受け熱を放っていて、そこを歩いている遊馬の影はとてもだるそうに本体から伸びていた。

「あっちい、な」

影が暑さでダウンしているのならば勿論影の持ち主も辛い訳で、先ほどからぱたぱたと手で何度も顔を扇いでいる。生憎そんな行為で涼しくなるはずがなく、すぐに暑さにうなだれた。

「暑いのか、遊馬」

「……アストラル。お前、暑く……ないんだな。ちぇっ 一人だけ涼しそうな顔しやがって」

「いや、太陽の光が強いとは思っている」

鍵からするりと抜け出たアストラルが、遊馬の姿を見て眸を瞬かせる。毒付いたつもりがさらりと真面目に返され、遊馬はそれを流しながら足を進めていく。と、十歩も歩かないうちに彼は足を止めた。

「……あ!」

「どうした、遊馬」

倣うように彼が見つめる先をアストラルも見やれば、カラカラと手引きの屋台台車が目に入った。垂れ下がった幕には青い色で氷やラムネといった文字が揺らいでいる。
何なのだろう、とアストラルが遊馬に問う前に遊馬はそこへ今までの暑さはどこへやら、元気に駆けていってしまった。

「ラムネ一つ下さい!」

そんな彼に引き寄せられ、アストラルも屋台を近くで観察する。遊馬は屋台を開いているらしい男性にはきはきと注文を伝えていた。
代金を渡せば、氷が無数に浮かぶケースの中からひょろりと長い形の瓶が遊馬に渡される。さっきまでの元気の無さはどこへいってしまったのか、瓶を受け取った遊馬は満面の笑みだ。


「遊馬、それは何だ」

「んー?これはラムネって言う飲み物」

ひんやりとした瓶を傾け、興味津々と覗き込んでくるアストラルへそれを見せた。上から三分の一の辺りが緩やかに絞られている形が物珍しいのだろう、両目を丸くしながら視線は形をなぞっている。

「ふしぎな形状だ」

「ふはっ。んじゃ、もっと不思議なもの見せてやるよ」

様々な角度から眺めだしたアストラルに遊馬はこれから手品でも見せるように蓋の包装を剥がし、凸の形をしたプラスチック製の部品を翳す。

「コレを、こうやって飲み口に被せて」

「?」

「力一杯、押し込むっ、と」

「!」

声と同時に遊馬が掌でプラスチックの部分へ力を加えればシュ、と空気が入る音と共に瓶の飲み口が一気に泡立ち、瓶を塞いでいたビー玉がころんと液体の中に落ちていった。

「どうだ驚いた?」

「ああ。……成る程、硝子玉が栓をしていたのか」

「そ。んで、飲むと美味いんだよ」

カチン、と瓶の上部に転がり落ちた硝子玉が小気味良い音をたてラムネ水の中で浮いている。冷たい炭酸水を喉に流し込むと心地好さに頬がゆるんだ。結露した硝子の表面からは雫が何滴も遊馬の手を濡らしていく。

「どんな味なんだ」

「そうだなぁ……甘くてさっぱりしててさ でも一番しっくりくる表現は、夏って感じかな」

そう言ってこくりと一口、喉を潤した。なつ、とアストラルは遊馬の言葉を反芻する。カランカランと跳ねるビー玉の音、太陽の光で輝く結露の雫、空のように透明色の青い瓶。夏の味と言われ、何故か納得してしまう。遊馬らしい答えと言えば更に納得出来た。

「なあ。ふと思ったんだけどさ」

「……ん?」

「何かコレ、アストラルみたいだなって」

「遊馬、君は私を何だと思っているんだ」

柔らかな水色が光を反射し遊馬の手のなかで輝いた。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -