探偵と助手の続き/その後
「全くつまらん幕引きだった」
ティーカップをソーサーに戻すと、カイトはふん、と興味が失せた顔付きで目の前に座る男を見据える。対する男……トーマスはと言えば片目に十字の傷がある双眸を閉じ、大きな溜め息を吐いた。
「断りにくかったんだ仕方ねェだろ。金とコネだけはあんだよ、あの女は。恩を売っておいて損はないし、どうせ探偵カイトサマのことだ、礼金はがっぽり貰ったんだろうが」
ソファに両腕を投げ出し、つらつらと皮肉と愚痴を織り交ぜた台詞を言い放つ。
カイトはその問い掛けに、当たり前だ。と応え足を組み替えた。
……金の方は、まあ、コイツの言う通りだ。弁護士の紹介に身内の事件だった為の揉み消し諸々、予想より得た利益は大きかった。
トーマスの言葉にこくん、と独り頷きながら凌牙は二人から少し離れた席で報告書を作成している。あとはこれをプリントアウトしてあの件の事件の依頼人の婦人へ渡せば、正規の報酬が此方にくるだろう。
カイトがこの作業は面倒だと凌牙へ押し付ける所為で、書類作成はすっかり手慣れてしまった。
ともかく、だ。俺は無関係、と喧嘩腰になってきた二人の会話をバックに凌牙は文字を打ち込んでいく。
「大体、あんなくだらない内輪揉めに俺と凌牙を使うな……!凌牙、貴様もそう思うだろう!?」
「ああ?俺だってあんな泥沼ハーレム気取ってる女の所へ凌牙も連れていくとは思ってなかったっつーの! 凌牙も嫌だったろ?カイトに何か言ってやれ!」
重い空気に巻き込まれないよう気配を殺すが、それを彼らは許してはくれないらしい。当然の如く双方から回答を求められる始末だ。
凌牙、と整った顔二つが急かす。はあ、とトーマスが吐いたものより深い溜め息を凌牙は溢した。
「……どっちもどっちだ」
「な、」
「は?」
だから落ち着け、と意味を含ませてそう言い、コピーのアイコンをクリックした後凌牙は仕方なく席を立つ。空になりそうなティーポットと二人のカップを一旦盆に乗せ、給湯室に姿を消した。
「カイトに連れていかれたのは確かだが、別に嫌じゃなかったぜ」
戻ってきた時にはカップが一つ増え、クッキーも添えられていた。トーマスの前のソファ、つまりカイトの隣に腰を下ろすと、カイトとトーマスの紅茶を淹れ直しながら凌牙はそう口にする。
「でもなぁ、カイトはほっときゃ1人で何でも出来んだぞ?お前を連れていくのは、カイトの我儘だ」
「好き勝手言うな、貴様のスキャンダルを売るぞ」
「それは止めろ」
「テメェ等うぜぇよ……」
髪を掛け上げ、くだらないと凌牙は脱力した。
カイトの我儘だということ位凌牙も知っている。彼が有能だということも。それに嫌味を添えながらも着いていくのは……凌牙の我儘なのだ。
「W、スキャンダル売られんのか。終わったな」
「凌牙も賛同するなよ!」
スキャンダルとやらの内容など知らないが、カイトが売ると言ったら芸能界追放もあるんだろう。
テーブルを挟んで舌戦を繰り広げ始めた、冷酷冷徹と謳われる探偵と芸能界を華やかに闊歩する人気タレントをバタークッキーを齧りながら凌牙は眺めた。