※璃緒男体化でリオ♂×凌牙





幼かった頃は鏡合わせをしたように似ている双子だと言われた。藍色の髪にくるりとまん丸い目の形。青と紅の目の色以外はそっくりで、お互いにそっくりだと言われる事が不思議と嬉しかった。
だが、二人を並べるとリオは直ぐに凌牙の後ろに隠れてしまうような子で。十歳にも満たなかった頃の双子は兄の凌牙よりも弟のリオの方が人見知りをしやすかったようだ。

小さかった二人は、世の中の当たり前の事なんて知る訳が無く、――どこまでも純粋で、無知だった。
寒いと思えば二人は凌牙のベッドでぬくぬくと身体をくっつけて眠れたし、転んだ凌牙が必死で涙を堪えようとすればリオは泣かないでと、目尻に溜まった涙にそっと唇を寄せる事もできた。二人で手を繋ぎ、じゃれ合うことも、誰にも何も言われなかった。それは二人が幼い子供であったからだと理解したのは何年か経ってからだ。

一日一日を過ごした幼い頃は思い出に変わる。
世界を知り、常識を得て、リオと凌牙は成長をしていく。

凌牙とリオの中だけの常識が、周りと違うと気付いたのは、十代の初め。
初恋だの付き合うだのと話す同級生の会話に二人は揃って首を傾げ――そして二人と周りとの齟齬が分かってしまった。
成長する事に、絶望したのはこの時だったのかもしれない。

『初恋』

凌牙が真っ直ぐ前を見据えたまま溢す。

『好きな人』

連想ゲームのようにリオも心にわだかまる単語を音にした。

『初恋は、リオ。お前だった』

兄の横顔が小さく笑ってから、泣きだしそうに歪んだ。

『俺もだよ、凌牙。好きな人は、凌牙だけ』

そんな会話をした帰り道、久しぶりに手を繋いで歩いた。
ブラコンと称されるのはお互いよく言われてきたが、この会話を切っ掛けにこの関係はそんな可愛らしいものではないと知ってしまった。突き詰めてしまえば、リオが凌牙に、凌牙がリオに抱いていたのは、恋愛感情だ。二人の初恋は二人の中で結ばれて、密やかに愛情を育んだ。

手を繋いで帰ったあの日、凌牙は静かに涙を流しながらリオの手を握っていた。好きになってすまないと、この想いは禁忌なのだと、滅多に泣かなくなった兄がぼろぼろ涙を溢してリオに謝る。そんな凌牙を見たリオは、それでもいいと兄の目蓋の上に口付けた。
双子が十三歳の時の出来事だった。


*

「凌牙、」

それから三年が過ぎ。
凌牙より長かった髪をリオは肩に付く位までさっぱりと切り、爽やかそうな出で立ちになっていた。兄はと言えばリオより少し長めの髪はそのままに、無意識の艶やかさを垣間見せる様になり、弟は兄に手を出す輩が後を絶たないと目を光らせてしまう。

「また髪そのままにしてる。風呂から出たらしっかり乾かせって言ってるでしょ」

「一々ドライヤーをつけるの、面倒だ」

兄は、……凌牙は自分のものだと周囲へ口にできないのが口惜しいが、こうして好きに触れられるから我慢が出来る。
ぽたりと水滴を落とす凌牙の髪を拭くために、隣へ腰掛けるとリオは青紫の髪にタオルを被せた。

「ん……リオ、擽ったい」

「知らない。俺に拭かせる凌牙が悪い」

真っ白のタオルケットの隙間から見えた凌牙は穏やかな雰囲気で笑っていた。
……こんな表情、外では絶対に見れない。

小さな満足感が弟の心をじわりと満たす。誰にも公言出来なくても、お互いが一番に大好きなのだと分かる。心底幸せだと思えた。

「ねえ、凌牙。今晩、一緒に寝ても良い?」

「キス以外、しないならな」

「……ちっ」

タオルに隠れた凌牙が、がっつくお前は嫌だ、と頬をつねってやればリオは舌打ち一つで大人しくなる。
押し倒してしまえば兄弟の力関係は逆転するのだが、手強い兄は中々その機会を与えない。

「リオ」

「……なに」

「好きだぜ」

リオの髪を拭う手が止まる。
タオルの間から見えた凌牙の表情はとても嬉しそうに見える。呼吸をすることさえ忘れ、兄の柔らかい色を湛える澄んだ藍の眸に魅入る。

「――っ。俺も、愛してるから」

「これくらいで泣くなよ」

「泣かない」

凌牙が笑っている。
それだけの事で、無性に片割れの存在が愛おしくなった。




両思いリオ♂×凌牙
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