神代ツインズ+天城ファミリー





「凌牙、今日は流星群が見られるんだって」

「へえ」

億劫げに、トースターからこんがりと狐色に焼き上がったパンを取る凌牙が気の無い返事を返す。それに璃緒はむ、と頬を膨らまして「もう、この寝坊助!」と兄を睨んだ。
朝が弱いといってもそろそろ目を覚ましてもらいたい。未だに欠伸と目を擦る事を繰り返す凌牙は彼女の話など完全に聞き忘れている。

「もう。何座の流星群か知ってるの?」

「流れ星の大群の名前なんて一々覚えてないだろ」

「何よその無関心さ……、まあいいわ。双子座流星群なんだって」

ココアを一口流し込み璃緒は小さく溜め息をついた。
凌牙はといえば聴いているのかいないのか。ぼうっとしたままパンにジャムを塗りたくっている。

「ふたござ、か……くぁ……」

「沢山流れるのよ?それから凌牙、ジャム零れ落ちてる」

「しまった」

「まったく……」

兄は大きな欠伸をひとつ。璃緒が言う「双子座流星群」を半開きな目をしながら凌牙は口の中で復唱する。
こぼれ落ちたジャムを拭き取ると、凌牙は思い切り身体を伸ばし尾を引いていた眠気から漸く回復した。

「なあ璃緒」

「なあに、凌牙」

「今夜見るか、流星群」

思えば、璃緒が入院中は流れ星どころか星空を見れていないのだ。退院しても、じっと星空を眺める機会自体あまりない。

「え、」

「見晴らしが良くて人工の光が少ない……中心街から外れた丘辺りで、見に行くか?」

パンを齧りながら妹に問えば、彼女は不思議そうに凌牙を見ている。面倒だったか、と丸くなった璃緒の目にどうにも居心地が悪くなりかけたが、それから稍あって、璃緒は嬉しそうに首を縦に振った。

「行きたいわ、連れてって凌牙!」

「厚着だけはしていけよ」

また一口、恥ずかしさを紛らわせるように咀嚼する。ブルーベリーの甘酸っさが口の中で溶けた。


*

珍しい、と天城カイトはメールに目を通し眉を上げた。メールを送ってきた送信者が本当に珍しかったからこその素直な感想だ。
内容は今晩から流れる流星群の位置や、シティ郊外付近の見晴らしの良い丘までの最短経路を確認するような内容だった。簡潔な文面で綴られた内容の終わりは、『璃緒が見たがっているから詳しく聞きたい』とこれまた珍しい兄らしさで〆られている。

「不器用な頼り方だ」

ふ、と密やかに笑うと、彼と同じ兄である立場のカイトは通信機から地図を起動させ此方も簡潔に返事を返した。
流星群。ハルトと父と、それからゴーシュとドロワにも声をかけて、たまには揃って夜更かしをしようかとカイトは考える。


*

風を切って走り、目的地である丘に着くと璃緒は一目散に夜空を見上げた。外灯が少なく、こうこうと街を彩る人工の明かりは眼下に広がっている。
あのしょっちゅう空を飛び回っているイメージのあった男に道筋を訊いて正解だったと、スムーズに来られた事を連絡しつつ一人頷く。直ぐに、『こっちも今夜はハルト達と夜更かしだ』と返信が来て凌牙は口角を柔らかくした。

「目、慣れてきたか」

「凌牙はDゲイザー弄っていたから全然慣れてないでしょ」

「そうだな、まだ明るい……一等星くらいしか見えねェ」

全然じゃない、と璃緒が隣で笑う。夜空に浮かぶ他よりもずっと明るい星を見上げていると、璃緒が真っ直ぐに空に向かって指を差す。

「今凌牙がじっと見てた明るい星は、双子座の一つよ。それ一点ばかり見てると、他の小さな星が見えなくなっちゃうから暗い場所も見なくちゃダメ」

「双子座の位置、調べたのか?」

「凌牙も、でしょう」

見合ってから、くすくすとどちらともなく笑ってしまった。些細な部分の類似にくすぐったい嬉しさがある。
妹が言うように暗い場所にも目を移していけば、やがて控え目に輝く星たちが視界一杯に映し出されてきた。冷たい気温の中、視界を覆うのは満天の星空だった。

「とても綺麗」

「ああ、そうだな」

今頃、カイト達も空を見ているのだろう。きっと彼等にもこの美しさが、否、銀河の竜を操るだけあるのだから凌牙達が見ている以上に、煌めいて映っているのかもしれない。

「あ!」

「あ」

二人の声はほぼ同時にこぼれた。星と星の暗闇の間を、一筋の輝きが音もなく流れて行った。一瞬の星の軌跡を網膜に焼き付くように二人はじっと夜空を見つめる。
願い事、言い忘れた、と横で唇を尖らせる璃緒に凌牙は苦笑いをした。

「また見れるだろ。まあ、その前にあの短時間に願い事三つは無理じゃないか」

「いいの、私が言いたいの!」

「はは、そうかよ。じゃあ次は言い切れるといいな」

「勿論よ」

そんなやり取りをし終えると、璃緒はじっと広大な夜空をまた観察し始める。
何を願いたいのか判らないが大切な妹の願いがいつか叶えばいい、と光の跡を残していく流星に凌牙は静かに願いをかけた。


*
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