甘い





遮光カーテンのお陰で、太陽が昇りだしたというのに部屋の中は薄暗い。目覚ましのベルは鳴らないし、部外者が来ることもなく、通信機の電源は切ってある。
資料や書籍が散らばる机も、カイトの私室だが彼とは趣味が違う私服も詰めてあるクローゼットも、そして白い上掛けがこんもりとしてるベッドも。カイトが現時刻、睡眠を貪る室内は全てが薄暗く、眠りを妨げるものはなかった。

いっそ時計の針が真上にくる位まで寝ていたい、半分眠ったままの思考がそんな意見を出す。それには大賛成だ。
何しろ、昨夜は日を跨いで眠らなかった。理由としては勉学がだとかそういった真面目な理由ではなく。
……カイトが寝なかったのは単に恋人と良い雰囲気になり、珍しく素直に押し倒れてされるがままに啼いてくれた恋人に不覚にもベッド上でのラウンド数が増えてしまったという何とも邪なものであったが。

随分とここぞとばかり恋人にアレコレさせてしまったが、兎も角、今日は休日だ。心置きなく眠れるし、眠らせてやることができる。
霞む頭で至極満足げに結論を出す。上掛けを手繰り止せて、カイトの腕の中で愛らしく躯を埋めるようにして寝息を立てる恋人の肩へ掛けなおす。

ん、と小さく擦り寄る行動が可愛いと思いながら、もう一眠りしようとカイトも思考を睡眠の流れに溶かそうと、した。


――そう。この後には心地の良い眠りがあると、必然のように思っていたのだ。
だが、そんな完璧な睡眠時間は唐突に、打ち破られてしまう。

最初に感じたのはするり、と首元に感じた柔らかな吐息。うん?と心の何処かが首を捻ったその瞬間、

「いっ……!」

一瞬にして頭が覚醒するほどの鋭い痛みが首元から伝わってきた。灰色の眼から危うく涙が零れそうになる程の不意討ちの痛感。一気に冴えたカイトの目は、痛みの原因の場所へ恐る恐る視線を下げていく。
己の首元。そこには、愛らしい恋人が穏やかな寝息をたてながら擦り寄っている、はず、だった。

「りょうが……」

「んー……」

それは返事なのか?などと眉を寄せて呻いている恋人……凌牙を見て、カイトは額を片手で覆う。

そこには愛らしく擦り寄る姿は無く、変わりにカイトの首元を未だ緩く食んでいる寝呆けた凌牙がいた。妙に色気のある凌牙の唇の隙間から僅かに尖った犬歯が時折覗いている。

これはどう考えても、恋人が痛みの犯人だ。
眠気はどこかに行ってしまい、入れ代わりに理性がぷつりと切れかかる。

飼い犬に手を噛まれたとは言うが、こちらは飼い主でもなければ犬でもないけれど、鮫に無意識に咬まれてしまった。

「新手の拷問か……ッ」

しかもがぶりと一噛みだけならまだしも、噛み付いた後に薄ら血の滲むそこを赤い舌によってちろちろとなぞられるというオプション付き。昨晩美味しく彼を頂いた身としては、この上ない煽りだった。

凌牙の赤い舌先があぐあぐと肌を食み、優しく舐める感触に、カイトはらしくなく狼狽える。吐息と舌の熱さにくらりと目眩がした。

「……凌牙。これは、お前の自業自得だ」

どうしようもない。カイトは恋人を休ませる、という選択肢を破いて捨てた。



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