5toZEXAL3の続





異次元だか異世界だか、ここではない場所から突如やってきた男二人に、取り敢えず泊めさせてくれないかと頼み込まれ、凌牙は渋々承諾してしまった。二人が叱られた大型犬に見えたなど、そんな事はない、はずだ。
もとより中学生一人が棲むには広過ぎる室内であるし、デュエルで久方ぶりに清々しい負けを味わったし、と後から理由を継ぎ足しながら凌牙はこれからの事を考える。

「お前ら、家事は出来るのか」

椅子に座ったまま振り返り声を掛けると、渡したハートランド市内マップをじっと見ていた二人の目が一斉にこちらを見てきた。ひく、と驚きで椅子を僅かに引いてしまったのは幸い気付かれてはいまい。
凌牙の言葉に「はいっ」といの一番に手をあげたのは長身の方――ブルーノだった。

「掃除機なら、」

「……じゃあブルーノは掃除と洗濯を頼、」

「分解するのが得意だよ?」

「……」

ほわんと笑顔で返され、言葉が続かない。何か敗北した気分だ。得意分野を訊いたんじゃないのだが、あの笑顔に怒鳴る気力はもう無い。

「それは止めろ……」

長い長い溜め息を一回。幸せが逃げるだとか言うが、それが本当ならとっくに運など尽きているだろう。
「目玉焼きも焼けるよ!」と得意気に微笑むブルーノには朝食担当になってもらうことにしたのは英断だと凌牙はひそりと自賛した。

「ブルーノ、早起きは出来るよな?」

「うん。プログラム組んで徹夜とか普通だったし、日の出を毎朝のように拝むんだよ。ねー、遊星」

「ああ、最近は殆ど仮眠を交互で取ったりでそんな生活リズムだな」

「……」

「凌牙?」

「……いや。そうか、じゃあ朝食作ってくれ」

徹夜やら仮眠といった生活サイクルが反転し不摂生になるような単語がごく自然に飛び交うのだから、お前らいつか体調崩すぞ。の一言が長い間となって消えてしまう。
取り敢えず彼らに今必要なものが分かった気がする。

「了解、朝ご飯は思いっきり腕を奮っちゃう」

「――なら、俺が掃除と洗濯をしてもいいか?」

「分解じゃねェからな?」

「フ、大丈夫だ。向こうでも出来る時は俺もやっていたから心配はいらないさ」

「――、」

そう穏やかに言うとマップの隣に置かれたマグカップを口元に持っていき、遊星は目を伏せて微笑んだ。
風が和ぐような表情に、微かな寂しさが伺えた。遊星も彼なりにこの状況の打開案を必死に考察しているのだろう。

「なあ、お前ら。ここにいる間は、」

何でもないと言い掛けた声を寸の所で止め、「どうしたんだ、凌牙?」と此方を見つめてくる二組の視線へ思い切って口を開く。

「此処に、いる間は、寝る時間くらい決めて……寝ろよ」

言っている内に気恥ずかしさが混ざり、段々と声が小さくなってしまう。言った手前、恥ずかしくて仕方なくなる。

「ふふ」

「わ、なん……っ」

右に左に視線を彷徨わせると、ブルーノの笑う声と頭上にぽん、と温かいものの感触が降ってくる。遊星の掌だ。そのまま遊星の手によって凌牙の髪はわしゃわしゃと掻き回された。

まるで年下の子供を誉めるような撫で方に、凌牙は目を白黒させる。何時も妹である璃緒には褒める側だったのもあり、こんな風に扱われるのは初めてだった。

柔らかく目を細める遊星ににこにこと花を飛ばすブルーノ。まるで年上の兄が出来たような、おかしな感覚。

「凌牙が弟みたいだね!」

「……うるせェよ」

「弟、か……」

「悦に入るなよ遊星」

けれど、決して嫌なものじゃない。




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