気持ち、遊アス





微睡む眠りの中、夢を見た。

それは、とても言葉ではいい尽くせない程の美しく幻想的なものだった。
普段眠りが深い遊馬が、夢を見るというレム睡眠状態になるのすら珍しく、時たま見る夢も巨大で厳かな扉に大切なものを失うと語り掛けられるというおぞましいモノであったから、久方ぶりにふわりふわりとした意識の内側でみたその美しい夢は起床した後も現像したポートレイトのように強く彼の中に残っていた。

「あー……」

ハンモックがきい、と揺れ小鳥の囀りで遊馬は目を覚ます。
目の内側では未だ美しい夢がくるくると回っている感覚がした。
低く呻き、それからゆっくりと身体を起こす。現実に帰ってきた実感にほんの僅かの虚しさが凪ぐ。

『君が早起きだなんて珍しい』

「へっ」

唐突に頭上から降ってきた声に、寝呆け眼な遊馬は反応出来ずに抜けた音をだしてしまう。が、直ぐに声の主が誰だか思い出し、安心したのか大きな欠伸を零した。
遊馬の胸元に煌めく金色の鍵が、眩しく輝いて見える。

『おはよう、遊馬』

「ん。おはよー、アスト、ラ、ル……」

『?、遊馬?どうし……、眸から水滴が流れているぞ!?』

「え」

ふ、と。遊馬は頭上にふわりと浮くアストラルへ視線を遣った。上を見上げる形で半透明な彼を見る。

──その直後、ぼろぼろと遊馬の両目からは幾つもの涙が粒となって頬を伝っていた。

「あ、あれ?俺、何で泣いて……」

『遊馬!どこか痛いのか?苦しいのか?遊馬?』

「アストラル?あ、違うってば!俺は大丈夫、うん、……何か夢の名残ってヤツだからさ」

『ゆ、め?』

アストラルが不安な表情から不思議がる顔に変わる。首をかしげ、目を丸くしてこちらを見た。
その仕草が妙に幼さを含み、珍しくて。零れる涙も止まらない内に遊馬は「そ、夢!」と繰り返す。きっとアストラルの不安な表情を消したかったのだろう。

『夢、というものを見たから、君は瞳から水滴を流してしまったのか?夢とはどういったものなんだ?』

「質問攻めするなって。夢見て普通は涙流して泣いたりしないっての」

『では、なぜ君はまだ水滴を零す』

何故。アストラルに問われ、遊馬は静かにはにかむ。

きらきらと、朝の日差しを受けて淡く光るアストラルの姿が朝方みた美しい夢とリンクする。光の粒が降り注ぎ遊馬の周りで数えきれない程の光が瞬き、花吹雪の如く舞い上がった夢を。

白や黄色、薄い桃色と光の粒があったが、一番淡く輝いていたのは薄い空色の燐光だった。花弁がぶわりと舞うように、光が遊馬を包んだ夢。空色の光は、今目の前にいるアストラルに酷く似ているように思えた。強く光れば弱く瞬いて。

目が覚めアストラルを見た瞬間、心の奥が温かくなり、そうしていつの間にか涙が出ていた。──美しい夢の欠片が遊馬の直ぐ近くにあったのだから。

小さく息を吐き、目元を拭う。

「心配かけてごめんな、アストラル」

『遊馬が平気ならば私は構わないぞ。それにしても君がぽろぽろと水滴を落とした事が驚きだ』

アストラルの指先が最後の一滴にそっと触れた。勿論、触れることは叶わないが、それでもアストラルは柔らかく微笑む。

『涙とは、きっと、温かいのだな』

「へへ。お前の指もあったかいよな絶対」

優しい光の奔流が舞い上がる夢を目蓋の内に描き、遊馬はアストラルと笑いあった。
今日もきっと楽しい一日になるだろうと思いながら。




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