「シャーク、シャーク!コイツがお前と話がしたいって言って聞かないんだよ」
そう言うと、遊馬は苛立った顔つきで親指をくい、と遊馬自身の背後を指す。
何を言っているんだ……。呆れてものも言えないでいると、遊馬は慌てて背後にいる何かの説明をし始めた。
「ここにいるのが、アストラル!オレに引っ付いて離れられねぇ奴なんだけど、時々横槍入れてきたりしてデュエルの腕は……悔しいけどかなり上で、」
「おい待て遊馬。何言ってんのかさっぱりだ、日本語を使え」
「シャークもアストラルも同じ事言うなっての!」
「……」
……どうやらアストラルと言う何かは、理知的な思考を持っているのだと凌牙は確信した。同時に遊馬が言っている事が虚言でもないと、目の前で拗ねる奴の過去のデュエル実績を思い返し、――遊馬には失礼だが成る程と頷く。しかしアストラル、中々面白い。
様々な感情や欲望の深層意識を支配している非感覚的な実体。そこから呼び名の由来がきているのかは知らないが、デュエルが上手いと言うのなら話に応じるのも一興だろう。
「まあいい。で、そいつは俺に何が聞きたいって?」
肘を付いて挑発的に遊馬の背後へつ、と視線を投げた。話を早々に理解した事に驚いたのか遊馬が目を丸くしてこちらを見るが、話をさせろと目で訴えれば通じたらしく少し嬉しそうに笑われる。
「あ、えっと。……オレとのデュエルは、楽しいかって」
「そいつとか?遊馬とか?」
「……後の方での奴と」
デュエル関係の難題を聞かれると構えていたが、遊馬を通じて返ってきたのは意外な問いだった。遊馬は居づらそうに目を泳がせ凌牙を見ている。
たのしい、か。果たして質問者はその感覚を知っているのだろうか。居心地が悪いのか困った表情をしている遊馬を横目に軽く目を閉じる。答えなど直ぐに出ていたが、向かいに座る少年をどうにも焦らしたくなったのもあり、暫く考える素振りを見せた。
「意外な事聞くんだな」
「どうなんだよ、シャークは」
「そいつがそんな風に今言ってるのか?」
「うっ。……アストラルは、じっと回答を待ってるだけで言ってこないけどさ」
随分冷静沈着なのか何かを試しているのか。真意は分からないが、凌牙は短い溜め息を洩らす。
「何思って、そんな事聞くのか判らないが、つまらねェ奴と今こうしてデュエル付き合ってやってると思ってるのかお前」
ぴっ、とスリーブの擦れた軽い音が鳴り、遊馬の目の前にカードを一枚突き出す。発動を宣言したカードは勝利への布石の一つ。遊馬が息を詰めたのが分かった。
「分かり切った事なんか聞くんじゃねえ」
「!」
凌牙はくつりと口角を上げた。