多分パラレル






「……?なんだこれは」

窓から吹き込む風がひんやりとしてきた夕方。買い物から帰りリビングで寛いでいたカイトは、パソコンテーブルの隅に置かれている黒く小さな四角いチップを見つけ首を傾げた。人差し指の先ほどの大きさのチップを摘みながら片手に持ったマグカップの中の珈琲を一口飲んでいると、背後のドアがカタン、と開く。

「凌牙、これはお前のか?」

「……俺のだ、落としてくれるなよ。データ飛んだら堪ったもんじゃねェ」

「ん? ああ、メモリーチップか」

「そうだ」

そんなやり取りを交わし、手にしていたメモリーチップを凌牙の掌に乗せる。自室から持ってきたチップをパソコンへ繋ぐ機器にカイトから渡されたモノを差し入れ、凌牙は手早くパソコンを立ち上げた。
背後には興味深々といった気配を漂わせるカイト。面倒げに振り返り、何だよと問えば暇潰しだと椅子に座る凌牙の頭を彼の手が優しく撫でた。気にせず続けろと言いたいらしい。

「……閲覧料はカフェオレだぜ」

「ククッ、甘口だったな。淹れてきてやる、待っていろ」

「ん」

ことん、とテーブルの端に珈琲の入ったマグカップを置いたカイトは甘口、と再度呟きキッチンへ消える。
その間にパソコンは立ち上げ終えるだろう、と凌牙は椅子に身体を沈め小さく伸びをした。

「淹れてきたぞ」

少し経ち、カイトが紺色のマグカップを手にキッチンから戻ってくる。渡されたマグを受け取り中を見れば、凌牙が所望していたカフェオレがたっぷりと注がれていた。牛乳が良い具合に混ざり、口にすれば驚く位に甘さ加減が丁度いい。

「……旨い」

「それは良かった。で、先ほどから何をしようとしているんだ?」

「今日携帯変えてきただろ。で、前のヤツに残ってたカメラの画像ファイル見てみようと思ってな」

思わず機嫌が良くなり、デバイスを差し込み画面を操作する動きも早くなる。
新しい機種の操作には追々慣れていけばいいとして、もう使わないだろう旧携帯のカメラフォルダに幾つか画像が残っていたのが気になり、気が変わらぬ内に見ておく事にした。という内容をカイトに簡単に伝えれば矢張り俺も見ると有無を言わせない声で背後を陣取られた。

チップの読み込みが終わると、背後のカイトの気配がじっと画面に注がれている。

「二年前……?一番古い画像みたいだ」

再生画面に一番に映し出されたのは卓上にズラリと並べられたカードだった。どうやら凌牙自身が使用していたデッキを一枚一枚広げて全体的に撮ったものらしい。

「あ、コレは」

「カイト?解ったのか?」

引っ掛かるが、何故撮ったのかいまいち思い出せないでいると、片側から覗き込んでいたカイトが声を上げた。そしてくつり、と意地悪く笑みを深める。

「お前こそ、思い出せないか」

「うぜェ。思い出せないから聞いたんだ」

「コレは俺へのメールに添付されてきたやつだ。いいバランスが組めないと、わざわざデッキをばらしてまで凌牙が訊いてきたんじゃないか」

「!あったな、そんな事」

カードテキストまで読めなくて返信には苦労した、と言う男を横目で制し、カチリと次の画像を表示させる。

「ハルトだ」

「……。トンボを捕まえた時のだ」

双眼を煌めかせるカイトに渋々、初めてトンボを捕まえられた時のものだと説明を入れてやる。日付は一年と半年ほど前になっていた。
透明な羽根をそっと摘み、ぎこちなくカメラへ視線を寄越すハルトは、驚きと嬉しさを醸し出していた。

「今でも指先にトンボが止まるとすげー喜ぶよな」

「ああ、嬉しいらしいぞ」

へえ、と小さな少年の成長に目元を和らげ、カーソルを次へと押す。
ここから数枚は遊馬とハルトだったり、VとWとXとカイトがタッグデュエルをしている風景だったりと、どれも賑やかな画像を写していた。

「……こうして見返して見ると」

「自分が変わった気がする、か?」

「何で一字一句同じ事言いやがんだ……」

「それくらい判る。俺だって同じ気持ちだ」

身内以外の他人に興味など無かった。必要に思わなかった。
だが、実際はいつの間にか興味を持って、カイトと凌牙に関しては必要不必要以前に、離れがたい関係にすらなっていた。

「次で最後だ」

「普段使わない機能だと言ってる癖に随分撮ってあったな」

「そうでもないだろ」

「大体、ハルトは兎も角三兄弟や遊馬を写すなら、俺を一番に撮れば良かっただろう」

「最後が本音か。――あ、」

「ん?」

カチリ、とマウスをクリックすれば、画像が移り変わる。最後の一枚を目にした途端、凌牙はぶわっと頬まで真っ赤になった。
慌てて消そうと藻掻く腕は後ろから呆気なく押さえ込まれてしまう。毛を逆立てた猫宜しく凌牙がカイトへ威嚇するが、カイトは涼しい顔をして喉をならした。

「見んな、――!」

「先程の言葉は却下しよう。何だ、お前もなんだかんだいいつつ俺が好きなんじゃないか……ふ、墓穴を掘ったな」


ラスト一枚、長方形の中に写されていたのは金色の髪がクッションに沈み両目を伏せ心地よさそうに微睡む、背後で笑う恋人の姿。
消したはずだったが、消し忘れていたらしい。

この上なく、羞恥で死にそうになるが今更逃げられはしない。
今度カメラでも買うか、と後ろから抱き締められながら訊かれると照れ隠しの言葉しかでなかった。



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