「……ん、?」
ぼやっとした思考が寝返りをしたいとメッセージを発するので、億劫に思いながらも体勢を変えようとした所でWは異変に気付いた。
肌触りのいい羽毛の上掛けが乱雑に身体に掛かっている。昨朝の記憶だと綺麗にベッドメイクされていたシーツはぐしゃぐしゃによれていて、とろんとした仄かに甘ったるい空気が部屋を満たしている。
そして、横に伸ばされた自分の腕の上にあるさらりとした感触と温かなぬくもり。
「……そうだった」
薄く霞み掛かった意識を無理矢理起こし、睡眠から引き摺りだす。己の首元位の位置にある見知った髪色の頭を見て、不意に声が漏れてしまう。寝起き特有の低いその声は、藍色の彼を視認した途端に砂糖を煮詰めたような甘さを多量に含んだモノに変わる。
そこで漸くWは昨晩何があったのかを全て、余す事なく思い出した。
昨日の深夜から日を跨いで、Wは未だ穏やかな寝息をたて眠っている凌牙を、これでもかというくらいに抱いたのだ。
欲求不満や酒の力に呑まれた訳でなく。凌牙の仕草一つ一つに、声と吐息に、見事に理性を落とされてしまった。
戸惑いと羞恥を含んだ青紫の両目で見つめられた辺りから、Wの自制が効かなくなった気がしている。
「……」
心の中であー、と叫び、にやけそうになる表情を必死に引っ込め隠す。
――凌牙がいる。しかも己の隣に。
鈍く痺れを伝え始めた腕も、愛しい彼の眠りを支えているのだと思えば不快感はどこへやら。
自由な方の片腕で上掛けを凌牙の肩口まで掛け直してやると、淡く色付く頬が擦り寄ってきた。それだけで寝起きのローテンションはスイッチが切り替わる。
――かわいい。
二度寝がとても勿体なく感じて、Wは興味に突き動かされながら寝息をたてる凌牙を穏やかに眺めた。
夕闇に染まる空を切り取った眸は目蓋の裏側で、昨夜散々涙で濡れた長い睫毛が呼吸に合わせ微かに震えている。
何度も啄み絡め合わせた桜色の唇はそこに昨夜の艶めかしさは無く、薄く開いた口元には神聖なもののように見えた。
それらの美しさを相殺するかのように、眠る彼の白い素肌にははらはらと赤い跡がちりばめられている。項から胸元、手首から二の腕、きっと上半身だけには留まらないくらいに。
荘厳華麗とでも評するか、または崇高と妖艶の二つを表せもつと言うか……。誇張では無く、割と本気で浮かぶ言葉全てを使ってWは凌牙の事をそう言った風に表現出来る。
どうしようもなく、溺愛してしまう。
はあ、と口から吐息を零す。幸せが胸を満たして、溢れてしまう。
「凌牙、凌牙……」
「ん、……」
小さく囁き、彼の名を呼びながらそっと目蓋の上に口付けを落とす。僅かに反応した寝顔に口角が弛む。
菖蒲の髪を梳いてやりながら、暫くはこの愛らしい存在を見つめていたくて仕方なかった。