蛍火パロ/ギン→カイトで蛍→凌牙
初めて奴に逢ったのはまだ俺が幼かった、六歳の時だった。夏休みを利用し田舎の親戚の家に来ていた俺は、蝉の鳴き声に誘われるように家近くの妖怪が出るといわれている森に迷い込んでしまった。
「……おい、チビ。何を泣いているんだ」
「っ……」
それがファーストコンタクト。狐面を着けた青年が、木漏れ日の中に佇んでいる。
確かにあの時の俺は幼かった上に泣き面という今から考えたらとてつもなく恥ずかしい姿を曝していたのだから、チビだのと呼ばれても仕方ないのだろうが、時たまそんな出逢いの話を出されるのはあんまりだと思う。
まあ、その後に道案内をしてくれて俺が森を抜けられた事は助かったのだけれども。
礼を言おうと翌日森の入り口の石造りの鳥居の場所まで行けば、石段に腰掛けた奴に呆れた声でまた来たのか、と言われた。
「そんな事言っても俺に興味あるんだろ?」
「フ、あるから待ってたんだ」
面に隠れて見えないが優しく笑われた、気がする。
それから奴――カイトと、俺の二人で過ごす夏が始まった。
奇妙な狐面をつけたカイトと六歳の俺とでは背丈も歩幅も違う。休もう、と言われ蓮の華が咲く池の辺に腰を下ろす。
「なあ、凌牙」
風の凪ぐ音や流れ込む水音に耳を傾けていたら、ふとカイトが俺を呼んだ。閉じていた眸を開け、カイトの方を見たら狐面を外した奴の姿があった。
水晶が反射しているような美しい双眸が俺を柔らかく捕える。
「カイト?」
「お前は俺が怖くはないのか」
穏やかに、問われる。幼かった俺でも、その時カイトが言わんとしている事は何となく察しがついていた。
妖怪が出るといわれている山、迷いなく道案内をして、そして山の中を知り尽くしているカイト。
「俺は人間じゃない」
「……ああ」
「それに、俺は人間に触れてしまうと消えてしまう」
「えっ?」
カイトの金色の髪が風で揺れた。人ではない事は怖くは無かった。予想がついていたから。
けれど人間に触れると消えてしまう、という事は幼い俺を困惑させるには十分な内容だった。
案の定、カイトは困った笑みを湛えながらも本当だ、と訂正をしない。
「……俺が触ったら、カイトは消えてしまう?」
「ああ。存在が消滅してしまうな」
「元に戻らない?」
「戻らない」
掴み所のない不安感が幼い俺に影を落とす。触れなければいいだけだ、と苦笑するカイトをしっかりと見られない。
「カイト、」
「どうした」
「俺は、お前を触らない」
「……ああ」
「触らない、からな」
幼い俺がカイトと交わしたやくそく。その約束を聞いたカイトは酷く、寂しげに見えた。
幼少期、夏の話。
続けたらいいな。