多分学パロ
ソファーベッドに腰掛けカードカタログを熱心に熟読していた凌牙の姿を、湯上がり直後のカイトはおや、と視界に収める。
風呂の順番を待たせてしまったのだろう、脇には畳まれた凌牙のスウェットが置かれていた。
ここで大人しく湯槽は空いたと伝えれば、何事もなく今日一日が穏やかに終えられただろうが、そうは問屋が卸さない。否、カイト自身が卸させない。
……つまりは、真剣な表情をしつつ長い睫毛を伏せた、そんな凌牙に内心欲を掻き立てられた訳で。
迷い無い足取りで彼に近づき藍色の恋人の片手を絡めとりながら、カイトも隣に腰を下ろす。上着を脱いだ所為で、ほっそりとした美術品のように精美な腕がむき出しの状態でカイトの目に映りこんでいる。
カイトは無意識に競り上がる欲求を嚥下する。しかし片手をとられた儘の凌牙はといえば、まるでカイトの存在など眼中にも無いとばかりに膝上でカタログを開き、もう片方の指先でページを捲っていた。
あくまで無視を徹底するつもりらしく、話し掛けるなというオーラがただ漏れだ。しかしそれを読んでやる程カイトはやさしくはない。
「凌牙」
「……」
つ、と絡める彼の指先に、手の甲に、薄らと血管が見える手首周りに、順々と唇を寄せ、カイトからの欲求不満の催促をした。
口付ける度、指先がぴくりと反応してくれるものだから凶悪な笑みが出来てしまうのも仕方がない。
「……おい、凌牙」
「チッ……キスまでしかしないぜ」
漸く視線を合わせた凌牙が、眉根を寄せぴしゃりと条件を言う。勿論そんな中途半端では足りない。
提示された条件に今度はカイトが眼を鋭くさせる。
「足りないに決まっている。抱かせろ」
「ふざけるな 嫌だっつってんだよ」
「何故だ?」
邪魔だったカタログを取り上げ床へ放り、ソファーベッドへ不機嫌な凌牙を抱き込みながら組み敷く。眼を三角にし睨まれるが、抵抗はされなかったお陰でカイトは愉快だと更に目を細める。
どうしてだ?と再度凌牙の耳元で囁くと、微かに熱を含んだ吐息を彼が零す。
「……ッ。お前は手加減を知らねぇからだ。次の日なんて、俺が動けないんだよ!毎回そうだろうが」
「だったらお前は俺に挿入れたいとでも」
「バッ!そ、うじゃねぇ……!」
「クク。ともかく、致した後は甲斐甲斐しく労ってやっているじゃないか」
「ダルさは抜けねぇんだよ。……されるこっちの身にもなれ」
なるほど、事後の鈍痛というのが問題らしい。見下ろすと、凌牙の目許は赤く火照っている。何か思い出しでもしたのか、カイトから必死に目線を反らす姿がいじらしい。カイトの中の理性を被る獣が機嫌良く喉を鳴らした。
そうした痛みとは無縁な狼は、さてどうしたものかと思案する。飢えて仕方がない。
纏う雰囲気を柔らかくし優しさを口元に貼りつけ凌牙……、と狼が名前を囁く。
「っ……かい、と」
「確かに、確かに凌牙の痛みを判ってやれていなかったことは謝ろう。すまない」
「――ッ!」
「だが、矢張り俺はお前が欲しい。心底欲してしまう。無理はさせないと努力をするから、……ダメか?」
藍色の目がふるりと揺れたのを確認すると、ゆっくりと彼の胸元に顔を埋めほう、と息を吐いた。……甘えるという芝居は完璧だ。
押しに弱い凌牙は、ややあって、控えめにカイトの服を引っ張りさっきよりも目許を染める。
「そこまで言うなら、たまには流されてやっても、いい」
――掛かった。
凌牙から零れた肯定の声に、ゆっくりと口角が吊り上がる。
有無を言わさずに直ぐにカイトは凌牙の口を塞いだ。
「ん、っ……は あ、」
「謝辞などしないぞ?今夜は寝かせられないな。そんな顔で許可した凌牙が悪い。――さあ、ハンティングの始まりだ」
「は、カイト、てめぇ騙したのか……!」
「さあな」
顔を赤くしてわななく凌牙を受け流し、優しさの皮を脱いだ獣がゆるりと笑んだ。