原作WDC開会式あたり/捏造





スタジアムの中は大勢の観客で大盛況らしい。スタジアム内の関係者通路までその歓声が届いている。

「陽気なモンだ……」

きっと観客はこのデュエル大会が純粋に楽しみなのだろう。第三者から見れば確かに気分が昂ぶるのも理解は出来る、喜悦するのも当たり前の感情だ。
しかしデュエルをする側の内、何名かはそんな気持ちのいい感情を持ち併せてはいない。観客達とは正反対の、鋭い刃先に似た激情を互いに突き付けようとしている。
そんな事を考えている凌牙自身も、己の牙を突き付けたい相手が、このデュエルカーニバルに残っていた。極東チャンピオンを名乗るWと、そしておそらく――。

「――、」

金色と、黒のコートが目蓋の裏で音もなく揺れた。焼き付いたあの姿がちっとも離れやしない。
凌牙は目を閉じ、開幕のベルが鳴るのをじっと待っていた。

*

開幕式は沢山の熱気で溢れている。そこかしこに映し出されるモニターが、歓声が、これからの大会の大きさを指し示しているようだ。
そんな中、凌牙は無意識に視線を巡らせていた。二十数名のデュエリスト達を視界に映していく。これからこのうちの何人と対戦出来るのか、愉しみに思う気持ちも確かにあった。
関係者や他のデュエリストの間を縫うように視線を巡らせれば、温情という仮面を引っ掛け被ったWの姿を見つけ静かな闘志が火を灯す。

――Wはいた、だがアイツは……出ているのか。

あの時、敗北を味合わせられてから、密かにあの男の動向の痕跡を探していたが、結局何一つ掴むことは出来なかった。恐ろしいまでに己の使命に身を削る彼の姿を、今でも鮮明に思い出せる。

――矢張り、この場にはいないのか。

「…っ!?」

そう思った瞬間。周りの動きが、音が、空気が、凌牙を取り巻く全てが一瞬で静止した。
はっと目を見開いた凌牙の目の前には、捜し求めていた鋭い眼光を放つ天城カイトの姿。

「な、に……っ」

「黙れ。時間が限られている」

驚きに眸を揺らす凌牙に、カイトは有無を言わせぬ口調で言葉を遮る。カツン、とカイトの靴音がやけに大きく響いた。

「No.32……海咬龍シャークドレイク。今度こそナンバーズを手に入れたのか」

「だったら、何だってんだ」

じっと、強い眼光に見つめられる。その瞳からは微かな驚愕と、憐憫の情が見えた。一歩背後へ下がろうとしたが、それは片手首を掴まれ阻まれる。

「ナンバーズに支配されていなかったのも驚いたが……何故だろうな、どうにもお前を見たら嫌な予感がした」

淡々とした声の中に靄がかかった言い方をされる。だからどうした、と言い返せない。
カイトに掴まれる手首が酷く熱い。

「いい加減離っ……」

「俺は」

「、あ?」

「俺はナンバーズを狩る。ナンバーズを持つデュエリストを、魂から狩り尽くす」

放った言葉を遮り、カイトは自分自身に言い聞かせるように苦々しく言い放つ。節々から何かに対する憤りが溢れていて、凌牙はいつの間にか静かにカイトの声に耳を傾けてしまう。
掴む彼の手が微かに震えていた。

「お前は今の内はナンバーズの力を抑え込んでいるだけだ。お前がそのカードの力に堕ちたその時は、俺が狩る。お前の心も魂も……全て、」

「……ああ」

「全て、俺の手で。俺だけの――」

憂いと狂気が入り混じる眼差しが凌牙をつ、と射抜く。眸がかち合った瞬間、周囲に音が一気に戻ってきてしまう。正面に彼の姿は既に無く、静止していた時が再び動き出している。
それに瞠目した凌牙にはカイトの言葉を最後まで聞き取る事は出来なかった。何と伝えたかったのか、ゆっくり動いた彼の口元を思い出しても判らない。

だが音もなく突き付けられた感情の切っ先は確かに凌牙の記憶と心に刃跡を残していった。


「……もしそうなったら狩ってみせろよ、天城カイト」

波乱の幕開けだ。





カイトさんが止めたのって0.1秒だったんですけどね
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