続/シンクロのターン






「凌牙がターンエンドしたから、ボクのターンだね」

ぽわん、と花が舞うように笑顔を添えてブルーノがデッキからカードを一枚引いた。6枚の手札を4つの目がじっと見つめている。どの手順で最良のターンを繋げられるか、二人は真剣に考えているのだろう。
凌牙の相手をしているブルーノが小さく唸った。ちらりとこちらを見て何か訴えてくる。

「何だよ」

「ええとね、遊星と相談してもいいかなーって」

「……好きにしていいぜ」

憎めない雰囲気を出しながら言われれば断れないだろうに。了承してしまえば、青年が嬉しそうにありがとう!と言いくるりと後ろを向きブルーノの手札を見ていた遊星と二言三言言葉を交わした。

「――じゃあ、ボクは手札から魔法カード『調律』を発動!デッキからジャンク・シンクロンを手札に加えて、シャッフル。そしてデッキの一番上のカードを一枚墓地に送るよ」

手札から緑の縁のカードを卓上に出すとブルーノはデッキからジャンク・シンクロンを手札へ、そしてまた山札を一枚墓地へ置いた。
墓地にランダムに送られたカードはモンスターカード。それを横目で流し見た遊星が薄く笑ったのを凌牙は見逃さなかった。

――何かがある。
そう確信した凌牙とデッキの持ち主の深い青色の瞳とが合う。どくりと胸が高鳴った。どんな策を魅せるのか、先が見たいと甘露のような誘惑にこくりと唾液を嚥下してしまう。

「ボクはジャンク・シンクロンを攻撃表示で召喚して効果を発動するね」

「……聞いた事のないモンスターだ」

「ん?じゃあ見せてあげるよ。はい」

満面の笑みでブルーノは凌牙へ召喚したモンスターの効果を見せる。手渡されたカードには効果の隣にチューナーと書かれていて、それが鍵なのだろうと未知の策略に胸が躍る。

「このカードの効果で墓地にいるボルト・ヘッジホッグをフィールドに特殊召喚。そしてこの時、手札のドッペル・ウォリアーの効果が発動されてこのカードも特殊召喚されるよ!」

先ほどの『調律』で墓地に落とした可愛らしいハリネズミの様なモンスターをフィールドに出すと、モンスターが三体並んだ。しかし同レベル同士の属性も違い、レベルは低く、と心許なく感じる。
訝しげにモンスターとブルーノを観察する凌牙に、本人はまるでこれから手品でも見せるかのように見てて、といたずらっ子の声音で言う。
青年が次に出したのは矢張り緑の枠の魔法カード。ワン・フォー・ワン。手札からモンスターを一体墓地へ送り――レベル1のモンスター1体を特殊召喚する効果。
ブルーノがデッキから召喚したのはレベルが一つの桃色の羽根をもつ鳥のロードランナーというモンスターだった。

「3、2、2、1……レベルが殆どバラバラだな」

「ああ、そうだ」

凌牙の率直な感想に遊星がそれに肯定を返す。通常召喚は既に行われ、他のカードの効果もほぼ召喚の際に使われてしまっている。
しかし効果の欄にシンクロやチューナーといった記述が酷く興味を惹く。

「はは。凌牙、難しい表情してると折角の可愛い顔が台無しだよ?」

「……。おい、遊星。こいつにデュエルさせて平気なのか。目が節穴だぜ」

「そうか?」

冷たい視線でブルーノを睨めつけたが、遊星は腕を組み至って真面目な表情で凌牙の言葉に首を傾げた。駄目だ青年二人のペースが掴め無さ過ぎる。

「まあまあ。落ち着いてよ凌牙。ここからが僕達の世界のデュエルなんだからさ」

「ブルーノの言う通り、そうなんだ。さっきは俺達が驚いたからな。俺もブルーノも、今度は君が驚く顔を見たくて仕方ないんだ」

遊星がゆうるりと笑むのと、ブルーノがすう、と息を吸ったのはほぼ同時だった。

「ボクはレベル3のジャンク・シンクロンにレベル2ボルト・ヘッジホッグとドッペル・ウォリアー、レベル1のロードランナーをチューニング!」

「なっ――!」

「――集いし願いが新たに輝く星となる。光射す道となれ!シンクロ召喚、飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!」

ブルーノの大きな掌がさっとモンスターのカードを横に流し墓地に送ると、エクストラデッキから白銀に縁取られたモンスターカードを一枚、机上に召喚させた。
見た事のない、白い色のカードに凌牙は何度か目を瞬く。ブルーノも遊星もそんな凌牙の反応にご満悦らしい。吃驚する少年を視認し二人はハイタッチをしている。

「どう?どう?凄いでしょ!」

「あ、ああ……凄い。……レベルを足して出したの、か?」

「フッ、そんなに不思議がられると凌牙も年相応な反応をしてくれるんだと嬉しくなる」

「本当だねぇ」

きらきらと光を放つ星屑の竜のカードを手に取った遊星が、それを凌牙へ渡す。俺達の絆なんだ、と遊星は慈しむ眼差しでスターダストを見つめていた。

「スターダストドラゴン――綺麗な姿だな」

「ふふ、遊星のエースカードなんだよ」

瞳を煌めかせてスターダストを感心しながら眺める凌牙へ、大人びた手が頭上に降りてきた。
視線を上げれば遊星が嬉しさを帯びた双眼で凌牙を見ながら頭を撫でてくる。

「凌牙とも、きっとスターダストが巡り合わせてくれたんだろう」

「――、俺に逢わせるなんておかしなドラゴンだな」

「あれー、もしかして照れてる?」

「ンな事ねぇよ」

白銀の星の欠片を纏った竜の、慈愛に満ちた咆哮が聞こえた気がした。



ドッペルさんの効果ェ…
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