微ファンタジー/パラレル/抜け出した世界〜の続き





青い水中を悠々と漂う。人工の灯りに照らされた硝子の内側は無数の同胞たちが設置された岩や珊瑚郡に潜んだり群れをなして空中を旋回していく。
透明の檻は水の空と人間が立つ空間とを隔てていた。

「(騒がしいな)」

鮫――凌牙はひらりと尾を揺らし眼下の隔たりの外を見た。水のなかよりも薄暗い空間で十何人もの人間が凌牙の同胞たちを見上げている。父親に肩車をしてもらっている幼児、親子仲良く手を繋ぎ小魚たちを仰ぎ見る少女……どの人間たちも水中を飛ぶ魚達を楽しげに目に映していた。
少女が此方を指差すが凌牙は我関せずとまた尾を振る。

騒がしいのは苦手だ。この水族園唯一の鮫である凌牙は唯一なだけあってよく入場者に騒がれる。どうにも感覚が鋭い彼はそれが好きではなく、早く人が空かないかと切に願うのだった。
すー、と彼らの前を素通りしながらふと目を細める。

「(……あれは)」

暗い隔たりの外でもその姿を見間違えるはずがない。横目で見た視線の先、ラフな格好をした金色の髪の青年が凌牙をじっと見つめていた。

――思い出すのは真夜中の邂逅。青年の優しい眸、落ち着きのある声音。それらは凌牙の人間『らしさ』を構築した全て。

真夜中でしか会ったことのない青年が昼間の、ましてや数多の人間の中に居た。
泳ぐ動きは止めないが、内心凌牙は随分と困惑している。
どうして、と疑念が溢れだしたが青年の隣を見てその思いは直ぐに霧散し、晴れた。青年の傍らには小学生くらいの子供が手を繋いで水槽を見上げていた。
話によく出る弟だろう。その弟の顔を見ようと旋回するスピードを落とす。
声は此方まで聞こえないが青年が凌牙をす、と指を差し何やら弟に嬉しそうに語っていた。

「(弟バカか)」

人型であったら壮大に溜め息をついていたであろう。この時ばかりは鮫である己のことを幸いに思えた。

「――……」

そしてほんの少し、この兄弟が来ているのなら、と凌牙は水槽の中腹まで浮上し、尾ヒレを左右に力一杯に揺らしくるりくるりと螺旋を描くように数回回ってみせてやる。

兄の優しげな目が驚くのと弟がぱあ、と顔を綻ばせたのを視認すると満足したのか鮫はあっという間に水槽の奥へ消えた。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -