Vがあらわれた!▼
「凌牙、お願いがあるんだ」
突然目の前に現れたVは、いつになく深刻と真剣さを帯びた表情で凌牙を見た。余程切羽詰まっているのだろう、突然でごめんなさいとVは一礼を入れるが凌牙をじっと見つめる視線は逸らさず、早々に本題に入りたがっているのがひしひしと伝わってくる。
「デュエルか」
「違う」
即座に一刀両断された。睨むが、Vにはまるで効いていないようで、猫が威嚇してるみたいだよと心外なことを宣われた。
じゃあ何だって言うんだ。そう喉元まで出かかるがするりと片手を掴まれ先はこの妙な雰囲気に邪魔されてしまった。
「僕と、お付き合いしてください」
「…………あ?」
恐らくこの先ありえないだろうくらいの低い確率で、思考が追い付かない。一時停止状態だ。一歩引こうとしたが両手でしっかり手を掴まれてしまった為に動く事も出来ない。
聞き間違えかと強く願うのだがVの眸は本気だった。新緑の柔らかな色は、爛々と凌牙を映している。
「なん、……お前、正気か?」
思考が追い付くと同時に動揺と混乱で一杯になっていく。放った言葉にVは生真面目に一つ頷いて肯定を返すのだから、ついには頭を抱えたくなった。
「僕は本気だよ。君が好きなんだ」
「何が、どうして、そうなったんだ……」
「前々から思っていたのもあったけど、……一番の理由はW兄さまに、ぎゃふんと言わせたいから」
「……。テメェ、俺だったから流せるがそんな台詞、特に後半を女に言ってみろ。手をあげられるぞ」
ぎゃふんだなどと可愛らしい単語が混ざっていたが、指摘する気力が無い。優しげで無害な顔をしたVが紡いだ理由は酷いくらいに『告白』からかけ離れていた。それを聞いて不思議そうに首を傾げるVに手ではないが、……口が出そうになった。ぎゃふんと言わせたいのが付き合う一番の理由なんて虚しいだろうが。
「アレと喧嘩でもしたのか」
「え!よくわかったね。僕、W兄さまに舌戦じゃ言い返せなくて……。だから、W兄さまが好きな凌牙と恋人になれたらW兄さまを悔しがらせられるかなって思ったんだ」
「解った。まずはV、テメェの根本的なWの認識から叩き直せ」
「W兄さまは凌牙が好きだよ?」
「そこが違うだろ」
聞いていて悪寒がした。そんな訳ないだろ、とこめかみをひくつかせるがVの顔は真剣だった。
兎も角、凌牙はふるふると首を左右に振り、未だ握られたままの手ではない方で眉間を押さえる。ひたすら考えるが、打開案が見つからない。
「じゃあ、W兄さまの件は置いておこう」
「結局それでいいのか」
「うん。いいんだ。――だから、凌牙は僕とお付き合いしてくれるかどうかだけ、考えてよ」
くい、と腕を引かれて凌牙は口を開く前に前のめりになってしまう。
目をくるりと丸めた凌牙の眼にVの淡く微笑む姿が映った。それは、とても近くで。
凌牙が体勢を立て直すより速く、頬に柔らかな人肌の温度が押しあてられる。
それが何か、理解した瞬間に顔が急速に熱を帯びていく。
「は、っ……V、テメェ!」
「考えておいて?やくそくだ」
声は絹のようにさらりとしているのに、向けられたVの眸は懸想に彩られている。
すきだよと口元が音無く形作られ、いよいよ凌牙はどう反応したらいいか判らなくなってしまった。