スキップしての続き/学パロ





この日日直だった凌牙は放課後に日誌を担任へと提出し、いそいそと昇降口まで降りたところで課題用のルーズリーフを入れたファイルを机の中に忘れていた事を思い出した。
二度手間だと舌打ちをひとつ、階段を駆け上がり教室を覗けば中はがらんどうで。しっかりと鍵のかかった窓から射す西日が橙を帯びて静かな室内を染めている。
その中へ踏み入ると、凌牙の机の上には一冊のファイルがぽつねんと置いてあった。確かに机の中に入れてあったはずだが、と内心訝しむがそれは確かに彼自身のもので間違いはなく。

「……?なんだこれ」

ぱらぱら、ページを捲れば一番新しい頁の隅、メモ代わりに書いておいたデッキに入れたいカード名の下に凌牙の筆跡ではない文字が並んでいた。
留めていたリングからその紙だけを取り外しよくよく見れば段々と眉間に皺が寄る。

「『そのカードなら俺が持ってるが。連絡入れろ、お前がこの前当てた罠と交換してやる』……。カイトか……」

筆跡よりも文章の言葉使いで本人が特定できるとは、そうある事じゃないだろう。それよりもこんなに高圧的な台詞がよく書けるなと半ば呆れる。凌牙は軽く頭痛がするこめかみ付近を押さえながら深く息を吐いた。

「字だけは上手いのにな……」

このやりきれない感はどうしたものか……。紙と睨み合いをしていた凌牙だが、暫くして筆記用具からペンを取り出すとその場でてきぱきと返事を綴った。

『人様のノートを勝手に見んな馬鹿 面倒だからお前から連絡入れろよ。カードはデッキ調整してから考えるから保留』

ルーズリーフをひたりと2つに折り、斜め後ろのカイトの席へ突っ込んだ。
翌日、折り畳まれた紙に気付いたカイトがニタリと凌牙を見やり、放課後には折り跡が残った紙が最初にファイリングされたバインダーノートが凌牙の机にでんと存在を主張していた。


「何だってんだ一体」

これを置いていった彼は唸る暇も与えてくれないらしい。捲ると、微妙に違う形の(恐らくカイトが愛用している文具会社のものだ)、ルーズリーフが綴じられている。
そこには矢張り一枚目と同じ筆跡で――先日頼まれたハルトの連絡帳代筆の事をつらつらと書いてあった。
抗議文か?と思う程に行数を使っているが、要約すればハルトが頼むから仕方なく譲ると言いたいのだろう。しかし文から悔しさが滲み出ているのは否めない。

『長い。 カイトだってハルトに通い妻、だとか不愉快極まりない単語教えただろうが。断じて俺は違う、』

それこそ面と向かったら手か足が出てしまうだろう、先日ハルトに言われた単語を思い出し怒りでインクを時折滲ませつつも切り返してやる。

結局この日は言ってやりたい事がいくつか浮かんだのでバインダーを家に持ち帰ってしまった。

*

フン、と満足のいく愚痴を書き終わりページを一枚継ぎ足して綴じると、今更ながら自分たちは随分可笑しなやり取りをしていると奇妙な気分になった。メールだと淡泊な事しか打たない所為か、凌牙自身の書く文面からは感情が剥き出しのように見えてしまう。それはそれで別に良いかと早々に考えを切り上げた。

*

翌日、同じように彼の机へ放り込んで置くと、カイトが昼休みに何故だか牛乳パックを奢ってくれた。しかし紙面のやり取りには触れはしなかった。あくまで切り離して応じるつもりらしい。

「おい、」

「ん」

「お前が持ってる水属性関連の魔法カード、デッキに入れたいからこの間俺が当てた罠カードとトレード出来るか」

「ああ……構わないぞ」

牛乳パックのストローに口を付けながら言えば、カイトはやけに上機嫌で頷いた。
明日持ってくると彼は言い、次の日の休み時間にバインダーと供にそのカードが中に添えられていた時には思わず笑ってしまった。

『これでいいか?』

『ん。俺もこっちに添えておく。  ありがとう』

助かった、でも、それでいい、とも書かず。何となく、素直に感謝の一言を思えたそのままに小さく文字にした。きっと滅多に使うことのない言葉だろう。

「……っ」

書き終わると、途端に酷く羞恥心が疼いた。が、生憎インクペンで書いてしまったので書き直しは出来ず。

バアン!と勢いよく閉じ、件のカードを挟み込み前と同じくカイトの机に滑り込ませると、周りの目も気にせず凌牙は珍しく狼狽えたような顔をして次の講義をエスケープした。
凌牙がいない講義の時間、その場に居ない彼が書いた一文に、密かにふるふると肩を震わせ悶えていたカイトには誰も気付いてはいなかった。



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