凌牙とハルトと連絡帳/学パロ





学生の本分をこなした週末前、金曜日の夕方。天城弟に自宅へ突撃されたと思ったら、ずずいと眼前に突き出された冊子に一体何だと眉を顰めた。

「なんだよ、ハルト」

「……」

無言の圧力に負け、渋々それを手に取ればカラフルなイラストの上に丸い印刷で『れんらくちょう』という字体が踊っている。

「カイトに渡せば良いのか?」

「ううん。違う」

ガシガシと後ろ髪を掻き分けつつ、天城兄の憎たらしく嗤う面を思い浮かべ苦い顔した凌牙だったが、その問いに兄と性格面で良い意味で似ても似つかない弟のハルトは緩く首を横に振ったのだった。

「じゃあどうすればいいんだ」

「ほごしゃの一言を書いて欲しいの。あとかくにんしましたのサインも」

「……奴が喜んで書いてるんじゃないのか? つーか、保護者はカイトだろう」

昔幼い自分も親にコメントを書いて貰っていたな。懐かさに浸りつつ怪訝な顔で連絡帳とハルトを交互に見る。
ハルトには彼を大切に溺愛するカイトがいる。勿論彼が本当の保護者であるし、その感想を述べる役割を担うのが当たり前なんだろうが、ハルトは矢張り首を横にしか振らない。
どうしてだ、と問えば。

「兄さんの一言は、先生がじょうずにかえせないって」

「それは……教師も大変だな」

目に入れても痛くないとはなんとやら。その諺に外れる事なくカイトはハルトを可愛がっている。律儀に一言へ感想を添える担任教師はさぞ返答に頭を悩ませただろう。
そんな担任の姿を見たのか、ハルトは頻繁に訪ねてくれる凌牙にその役割を代わって貰えないかと、自ら凌牙宅へやってきた。彼なら適任だとハルトはこっそり確信している。

「週末に書いてもらえればいいんだけど学校帰りに持って来るから、……いけない?駄目?」

「いや……いけなくはねぇけど、他人が代筆してたらハルトが教師に怒られるだろ」

「先生は大丈夫だって言ってた」

「そりゃまあ、対応する担任の気持ちも分からなくはないが、いいのか?」

俺で、と言い気恥ずかしいのか視線を彷徨わせる凌牙にハルトは大きく一回、頷いた。
早速今日の分、と日付と明日の連絡事項を書いてある隣へ保護者の一言をお願いすると、連絡事項に目を通した凌牙はボールペンで『代筆致します、神代といいます。月曜の音楽は体育へ変更したようなので冬用の体操服を持たせます。あと、風邪が流行っているようなので家でもうがい手洗いをしなければいけないですね。』と、サラサラと書き綴っていった。癖の少ないさっぱりした文字は凌牙のものだが、――この日ハルトは保護者らしい一文と言うものが何なのかしっかりと理解出来た。

「ほら。こんなんでいいか?」

「……。あり、がとう」

「帰ったら手洗いうがい、それから体操服、忘れんなよ」

「うん」

ぽん、と冊子をハルトに返し凌牙は椅子から立ち上がるとこちらを見上げるあどけない子供へ手を差し伸べ、纏う雰囲気を僅かに緩める。

「暗くなりそうだから途中まで送ってやるよ」

「……ほんとう?」

「ん」

自宅の鍵をポケットへ突っ込み、片方の手はハルトがぎゅう、と握った。
手をつなぐ幼い彼の横顔はどこか嬉しそうに見える。

*
――で。


「コメント、何か言われたら次からはカイトにやらせるんだぞ」
「大丈夫」
「お前なぁ……」
「だって、凌牙は通い妻だから」
「……ハルト、そんな単語誰に教わった?」
「兄さん」
「へえ。お前の兄とはいずれ家庭訪問か二者面談しねぇとな」
「?」



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