天城兄弟に振り回される凌牙/気分カイ凌/猫の日





まだまだマフラーが手放せない如月の22日、街を歩いていた凌牙は突然腕と腰を捕まれ空中へ拉致された。
は、と気が付いたら耳を擦る風の音。何事か。現状を把握出来ずに抱き抱えられた姿勢からおずおず視線を少し上げれば、金糸を風ではためかせた美青年がしたり顔でこちらを見ていたので、一連の出来事を全て理解出来た。

「テメェ……」

「暴れると落とすぞ」

ニタリと笑われ、凌牙はどうしたらコイツの苦い顔が見れるだろうかと真剣に考えてみる。取り敢えず、降ろされたら蹴りでもいれてみることにした。



「……で、なんだ?」

「今日は何の日か知っているか」

結論を言うと、蹴りは入れなかった。少し長めに説明をすれば、降ろされた場所には攫った犯人の弟が居て、その弟に兄が無残に足蹴にされる姿を見せるのは憚られた為に、蹴り付けるのは此処まで飛行モードで来た万能ロボにした。その為、凌牙は不機嫌が最高潮であったし、兄弟の後ろには時折グエ…と鳴く機械が細く黒い煙をあげている。

「今日?イギリスの名誉革命で権利の章典が発布された日か?」

詳しい日にちまでは解らないが2月に確か起こったはずだと記憶の引き出しを探す。権利の章典、立憲君主制、議会制民主主義の確立等々……試験で良く出る内容である。もっといえば試験作成者が教師である右京であれば、解答はどんな内容であったかと求められる文章問題になるだろう。いつも朗らかな教師なのに試験内容はえげつなかったりするのだ。

眉根を寄せ口に出した言葉に兄は呆れた顔で、弟は感心した瞳でこちらを見た。兄がとても何か言いたげだ。

「意外と……真面目なんだな」

「……うっせ」

不本意ながらその台詞、先日九十九遊馬に言われたばかりだ。

アクセサリーを着けたり、学校を無断欠席したり、学校一の札付きだの不良だのと言われたり……問題児のレッテルを貼られそうな凌牙なのだが、意外にも勉学はきっちりしていたりする。もっといえば炊事洗濯も一通りマスターしていた。
真面目…と兄弟揃って呟かれたのは聞かなかったことにして、本当の用件を聞くために凌牙は舌打ちをして兄であるカイトを睨んだ。

「で、俺を拉致りやがった本当の目的は」

目的、と聞いてカイトは随分と申し訳なさそうな顔をした。本当に判らないのか…などと今にも言いだしかねない顔だ。ナンバーズハンターがするような顔じゃねえ!と心の内で叫ぶ凌牙。そんな優しさの含まれた表情は弟のハルトしか知らなくていいだろと思っても口には出さなかった。

「ボクが凌牙と遊びたいって言ったから」

それに口を出したのは珍しく、ハルトからだった。純粋な丸い瞳で見上げられ視線が泳いでしまう。

「遊馬でも呼べよ……」

「テスト勉強で大変だから無理だって、あすとらるも遊馬も言ってた」

追試かアイツ。その言い訳に納得する。今ごろ嫌々ながら教科書と睨み合いをしているに違いない。

ふと、考えていた凌牙の前に黒い影が落ちてきた。目線をあげれば、妙に真剣な双眸をしたハルトの兄。口を開く前に、頭に何かカチューシャのようなものを着けられた。

「は、オイ、何した!」

ふざけるなと着けられたソレを外そうとするが、髪が乱れるくらいに引っ張っても外れない。

「……何着けやがったッ!」

「ク、ハハッ 俺の目に狂いはなかったな」

焦る凌牙に対し、目を爛々とさせるナンバーズハンター基、天城兄。怒鳴り、何故こちらだけが疲れるのか、凌牙は切実に問いたくなった。追い打ちをかけるごとく着けられた髪留めの形状も良く把握できない。
なんなんだ一体…、凌牙の疲れは溜まるばかりだ。

「……にゃん」

「ハルト……それは俺の頭に着いてるものの真似か?」

「うん」

「……」

判った気がする。
いや、解りたくなどなかったが、今日は何の日など問われた時点で気付けばよかった。

「凌牙、猫耳似合ってるぞ。色んな意味で遊びたくなる」

そんな言葉、小さく舌なめずりをするカイトから聞きたくなかった。
厭な予感しかしない。


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