学パロ
真っ白になっている凌牙の手先を見て一番に口にでたのは「末端冷え症か?」だった。
疑問形にしたはずなのに横から鋭い視線がカイトへ飛んでくる。余計なお世話だ、とでも言いたげにカイトをちくちく刺す凌牙の無言の圧力が冬の冷たい空気と相まって攻撃力を増していく。視線を逸らしても、冷え症に悩む女子じゃねぇんだからそんな心配だみたいな顔するな、と凌牙からの心の声が聴こえている気がしてならない。
「……悪い」
「何がだ」
失言だったと思い反射的に謝罪をしても余計に機嫌を損ねただけだったようで。不機嫌に隣を闊歩する彼から気まずさに耐えきれず半歩ほど間をとれば思い切り舌打ちをされた。これは相当機嫌が降下してきている。
半歩と言わず凌牙に蹴られても届かない距離まで離れたくなった。
「今朝着けていた手袋はどうしたんだ」
この空気をどうにかしたいカイトから漸く出た話に凌牙は眉を顰め寒さで白む自身の指先を見遣る。
冷たいという感覚は疾うになくなり、見ている手が己のものでないような気すらするくらい感触も鈍ってきていた。ぎゅう、と握ってみたがカイトが問うような手袋が出てくるはずもなく。
「……学校に忘れたんだよ」
ぶっきらぼうに言葉にしてから、酷く恥ずかしくなった。カイトにぐるぐると巻かれてしまったマフラーへと口元を埋めむすりとする。失態を知られ、寒いはずだというのに耳や頬が熱を帯びているようだ。
「……」
「フッ 珍しい」
だんまりを決め込んだ凌牙にカイトはくつり、と緩む口角を抑えきれない。普段、確認を怠らない凌牙だけに忘れるなどということを告げるのは悔しい程の羞恥なのだろう。ここで可愛いなど言うものなら蹴られるだけでは済まないだろう。口にはしないが、全く可愛らしくて敵わない。
もっと含羞を見せてくれてもいいのにな、と心の内で言いながらカイトは離れた間隔を狭め凌牙の片手を掠め取った。
「なっ、カイト!?」
「ベタだが、こうしていた方がいいだろ?」
掴んだ手をカイトは自分のコートのポケットへ押し込む。
じわり暖かなカイトの手が包む様に指を絡めてしまえば、凌牙は何も言えなくなってしまった。