ファンタジー/ドラゴン×人間






ドラゴンとは最強の種族にして孤高の一族である。

数多ある書がそう記し、また世界に住まう人類を始め知識をもつ生物は皆ドラゴンという生き物をそう捉えている。人間はドラゴンが住まう山や谷に不可侵の誓約を結び、互いに干渉することを嫌った。ドラゴンの前ではどんな武器も咆哮一つで崩れ去ることを知っており、その事を恐れたからだ。
世界ではそれが当たり前であり、常識だった。



「帰ったのか」

「ああ。少し雨に降られてしまった」

「ん、……本当だ。雨の匂いがする」

深い山と渓谷の奥、蔓と巨木の道なき迷路を抜けるとそこには古い石造りの古城が木々に紛れるように建っている。蔦が生い茂る其処はぱっと見れば無人の廃墟のように映るが、よくよく見れば窓の向こうにはドライフラワーが吊り下がり、光が当たる位置に鉢植えが置かれ瑞々しい植物が育っていた。

明らかに誰かが生活しているのだと感じられる温かさ。それらは全て、楽しげに話をしている二人が作り出しているものであることを本人たち以外は誰も知らない。

雨に降られたらしい金色の髪をした青年は、すんすんと男の首もとへ顔を寄せ外の香りを嗅ぐ少年を好きにさせながら、彼の藍色の髪をそっと撫でる。

「風呂、沸かさないと」

「いいや。着替えだけで構わない。それよりも部屋に戻るぞ。お前が風邪を引いてしまう」

「んなことねぇよ。過保護だな」

「……人は、脆いだろう」

そう溢す青年の首筋、雨水が滴るその肌には所々うっすらと鱗のような皮膚が覗いていた。
過保護だと言った少年はその首筋の鱗をそろりと撫で、苦笑する。

「ドラゴンから見たら生き物全部が脆いっての」

「凌牙以外は知らん」

「ほら、カイトは過保護だ」

するりと抱き締められた凌牙と呼ばれた少年は仕方がないといった表情でカイトからの抱擁を甘受した。

「なあ、カイト」

「ん?」

「雨が上がったら、……またお前の、ドラゴンの背中に乗せてくれないか?この前言っていた『海』ってやつを見てみたい」


不可侵の誓約、それはドラゴンと人間が結んだもの。しかしこの人間と言うのは、村や都市という密集して暮らす場所の上に立つ人々が締結したもので。
高い知性と個体数の少ないドラゴン側には知れ渡っていても、森に捨てられ孤独だった凌牙には全く知らないものだった。一方、カイトはその事を知ろうと凌牙以外の人間に関心はない。自らの生息地に城を建て其処に二人慎ましく暮らせればそれで良いという判断だった。

それは例えカイト自身がドラゴンの中で指折りの実力を持っていようとも変わらない。否、恐ろしいほどの実力を持っているからこそ、人の子である凌牙と二人で密やかに暮らす事が出来るのだろう。

「ふ、珍しくねだってくれるな。いいぞ、連れていってやる。そうと決まれば其処に住む生き物の話もしなくてはな」

他者の人間をこの山岳地帯へ入らせず、他のドラゴンとも極力接触を控える。そうすれば、カイトの生きる目的を凌牙を主軸に置くことも出来た。

「…ん、楽しみに、してる」


きらきらと瞳を輝かせる凌牙は、そわそわといじらしくカイトの袖を掴み微かに微笑む。勿論だ、と声を落としながら喉を鳴らすのはカイトが上機嫌な証拠だ。

もて余す力も聡明な知識も、カイトはただ一人、凌牙の為に使う。そこには主従ではなく、互いに恋慕う感情があるだけだ。
それは何物にも変えがたい、ただ一つのドラゴンと人の愛情の形。

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