学生パロ




一日分の講義が終わり。
カイトは心なしか軽くなった鞄から、昼休みに買っておいたミネラルウォーターを取り出す。板書を写し参考書を黙々と捲っていただけなのだが、集中していたのか喉が渇いてしまう。
ボトルキャップを開け喉を潤していると背後からパコン、と軽い音をたて頭を叩かれた。ボトルの口から跳ねた水滴が顎を伝い机上に落ちそうなのを手の甲で拭い、叩いた人物へちろりと顔を向ける。

「なんだ、神代凌牙」

神代凌牙と呼ばれカイトを丸めた参考書で叩いた彼は精美な造りの顔に、不機嫌という表情を乗せこちらを見ていた。
ややあって引き結ばれた口元が小さく開き凌牙は天城、とカイトの苗字を口にし、もう片方の手に持っていた名簿を目先へ突き出す。

「課題提出期限が明日までのもの、お前だけ出ていないんだよ」

なるほど、こいつは集計係だったのかと頭の隅で思いつつも、カイトはそんなはずはないと切り返す。書かれている課題は三日程前に直接教諭へ渡し終わっている。教諭の伝え忘れだ、と続けて述べ名簿を凌牙へ押し戻した。

つらつら有りの儘を彼へと言い終わった後、こんな無愛想な伝え方では神代は憤慨するのではないかと気付く。

「(……しまった)」

他人にどう思われようと何を言われようと涼しい顔で無関心に受け流すカイトだが、凌牙に不快を負わすのは……何故だか憚られた。理由付けなどなく、ただ本心がそれを拒んだ。故につっけんどんに言い放った言葉が後になり罪悪感を引いてくる。

「……いや、オレがお前に言わなかったのもあったんだろう……手間を取らせたな」

その罪悪感とやらがカイトに言わせたのは不慣れな弁明だった。端から見たら随分らしくないだろう。凌牙を直視出来ず、目線はミネラルウォーターのボトルを捉えたままだ。

「……そうか、分かった。天城は提出済み、か」

数拍置いて、落ち着いた声音がカイトへ届く。凌牙は怒っていないらしく、静謐とした視線は名簿へ移っていた。


「――なあ、天城」

「どうした神代凌牙。記入漏れでもあったか」

ふいに名を呼ばれカイトは手元の鞄に落としていた目線を上げ凌牙へ変える。カイトを呼んだ凌牙はじっとカイトを見ていた。一体どうしたというのか、カイトは首を傾げたくなる。

「ソレ、止めろよ」

「何をだ」

「……。フルネームで俺を呼ぶのを、だ。恥ずかしいだろ」

全く気付いていなかった所を指摘され、凌牙に睨まれるより驚きの方に意識が逸れた。そのようにお前を呼んでいたのか?と問いたい位に自然に呼んでいた。

「恥ずかしい、か」

「そうだろ」

「そんなものか」

「……おう」

油を差し忘れたカラクリの如く凌牙はぎぎぎとカイトから目を逸らし、名簿で顔を隠す。凌牙の照れ隠しに、く、と口元が吊り上がるのを抑えられない。

「これからは気を付ける、 凌牙」

りょうが。呼んだ声は落ちない甘さを含んでいた。


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