オムニバス怖い話



人形

僕の二つ年上の兄様は女性受けする外見とは裏腹に、人形が好きなんです。
人形といっても縫いぐるみではなくビスクドールやフランス人形のような、とてもリアルな出来の物が好みのようで、海外に行った際や時にはネットでも購入したりしていました。
最近のお気に入りは瞳は硝子玉でできている球体関節人形のようで。服から人形のパーツメンテナンスから何まで、本当に楽しそうにお世話をしていて。
まあ確かに男性の趣味が人形、というのは抵抗がありましたが、あんな幸せそうな兄様の姿を見ていたら人それぞれ、と思えてきました。
今日も新しい服を人形に着せて、とても機嫌が良さそうです。人形も、青い硝子の瞳をきらきらとさせて満足そうに見えました。
今度は今のものより身長が高い人形を迎え入れたいと言っていました。その為の専用の入れ物まで特注する熱のいれようです。

その入れ物が先日届いたのですが、透明な硝子ケースはまるで……そう、棺のような美しいものでした。

近々そこへ兄様の愛しい人形がはいるのでしょう。
透明のそれに青い髪はさぞよく映える、と兄様はうっとりと微笑んでいます。



彼の王国

最近頻繁に夢をみる。
気づくと俺は白亜の岩で出来た海の見える城の中に立っている。目の前には人が1人座れる豪奢な椅子。
俺はいつもそこでどうするべきが悩む。椅子に座るか、座らないか。そんな下らない事でこんこんと悩み、気がつくと白亜の壁は沈む夕日で赤く染まっている。
そうするといつも背後から声がかかり、振り返れば銀髪の男が穏やかな笑みを携え立っていた。
どうしたんだい、と。

「ここに座ろうか悩んでいる」

俺は決まって男の問いに生真面目にそう答える。毎回毎回、男の答えに何を求めているのか。彼がそっと口を開きかけた所で、いつも目が覚めてしまう。

だけど、今回は違った。
がりがりと、錆びた歯車が動いたような音が頭に響いてきた。すると、男が口を開き、ゆっくりと双眸を細め俺を見詰めて微かに息を吐いた。

「ここは君の王国。君はその玉座に、座る権利があるよ」

「俺の、王国?」

「そう。君だけの、いいや、私と君だけの王国。私は君の親友なんだよ」

銀色の瞳は真っ直ぐに嘘偽りのないことを雄弁に語っていた。俺を何かから急かすように、夕日が沈み段々と空が紫へ染まっていく。

俺は、そいつに促されるまま、美しい玉座へ腰を下ろした。男は酷く嬉しそうに目を潤ませる。

「これで、ようやく君との王国を造っていける」

幸福な声だった。幸せを噛み締めるかのような男の声に、俺は抗えない睡魔を覚える。
目蓋が重くなり、世界が霞む。

「私だけの王。もう離しはしない」

がりがりがり。歯車が回る音がする。その音は目蓋を閉じる動きと連動しているような、そんな気がした。
やがて、錆びた音は止まる。その事に恐怖はなくて。

きっと俺は王国の夢をずっと見続けるのだろう。彼と、二人だけの王国の夢を。




恋人に至る経緯

目の前の彼へ、言わなくてはいけない事があった。

ここ最近凌牙はストーカーにあっている。
帰りをつけられたり、ポストには凌牙をどれだけ愛しているかを綴った手紙や盗み撮りが入った便箋が投函されていること、一昨日にはついに部屋の中のものが微妙におかしかった。

いくら自分が男だからといって、見ないフリには限界がある。無理をしていた事や、体調不良も重なり、とうとう凌牙は学校で倒れてしまった。
意識が戻った時、そこは保健室の白いベッドの上で、横たわる凌牙の隣には見慣れた銀髪が視界に入る。

「凌牙……!よかった、目が覚めたんだね」

「……、ドルべ」

「君が倒れたと聞いて、いてもたっても居られなくて。悪いと思ったが、養護教諭にお願いして側に居させてもらったんだよ」

よかった、と再度ドルべは安堵の声を吐露し凌牙へ柔らかい笑顔を向ける。
穏やかでいて甘さを孕ませた表情に、凌牙の鼓動は大きく脈を打った。咄嗟に胸の辺りを左手できゅう、と押さえた凌牙へドルべは体調がまだ悪いのかと問う。
そうではない。感情の不調……要は、ドルべに対する恋愛感情からくるものだった。恋だと自覚したのはいつからなのか、凌牙本人にもわらない。ただ隣にいる時間が増える度にドルべへの思いが募っていっていた。

「……、凌牙。聞いてくれるかい」

「ん?」

静かに何かを考えていたドルべが、酷く真剣な瞳で凌牙を射抜く。心なしか、凌牙の片手を握るドルべの手が震えていた。

「最近の君を見ていると、もう、我慢が出来ない。……凌牙、私は君が好きだ。友人としてではなく、恋愛感情の対象として。こうして一人で悩みを抱え込んでしまう姿を、黙って見ていられない。……すまない、急にこんな、事を」

こうして言われても戸惑うだけだな、とドルべはそっと凌牙から離れようとする。しかし、彼が見た凌牙はほろほろと涙を溢す姿で。
俺も、と掠れる声でドルべの告白を受け入れるように頷いてみせた。

「俺だって、好き、だ」

「ほんとうに?」

「おう、……けど、最近、俺……ストーカーにあってて……手紙とか盗撮とか、ドルべに危害なんてあったら、とか考えると……俺はどうしたら良いのかわからない」

ぽつりぽつりと語られる凌牙の声に、ドルべはいとおしさを混ぜた声で優しく笑った。

「私がいるからもう大丈夫。手紙や盗撮や家に入られようと、怖くはないさ。それよりも凌牙、君を何者からも全力で守ろうと誓おう」

「ドルべ……ありがとう」

「ふふ。お礼を言うのは私の方だ。ありがとう、凌牙。これからは君の隣で堂々と君を愛せるのだから」

恥ずかしげに笑う凌牙の目元に口付けを落とし、彼は一層言葉に愛を込めた。


*
人形→Wと青い人形の話
彼の王国→二人だけになりたいドルべの話
恋人に至る経緯→ドルべは紆余曲折ありまして恋人同士になれました。
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