現代パロディ/まさかのカイ凌が飼っている金魚視点




我輩は金魚である。

なんて気取って言ってみたが、エラ呼吸の自分には猫のように外の世界を闊歩出来る筈もなく。幅60cmの水槽の中からゆったりたっぷりのんびりと室内を観察するくらいしか出来ない。
つまらなくはないのか、と言われれば僅かに考えてしまうが、答えは否、だ。

何故なのか。先ずは私の飼い主から紹介しなくてはならないだろう。

私の飼い主は二人いる。私の住み処提供兼餌やりを担うこの部屋の主人。そして縁日という場所で私を掬い上げ、私の成長ぶりを見に来る主人。因みに水草や砂利、れいあうと、と言うらしい枯木など、私の住み処を綺麗に整備してくれるのも掬い上げてくれた主人である。
どうして私が掬い上げた主人に育てられていないのかといえば、この部屋の主人は一人暮らしをしているかららしい。縁日の帰り道に、掬い上げた方の主人が「寂しくならないように、こいつ飼えよ」と水と私が入った袋を愉しげに渡したのだ。不意をつかれた顔をされていたが部屋の主人は私を受け取り、次の日には掬い上げた方の主人と共に私のために立派な住み処を購入してくれた。

掬い上げた方の主人は数日に一度は部屋に来て料理をしたりうとうとしたり、時折私の水槽をノックしたりしてくれる。
部屋の主人も毎朝私の餌を忘れずにくれるし、稀にであるが掬い上げた方の主人の名前をぽつりと溢したりしていた。

そんなお二人に興味が湧かないはずがなく、私、金魚の生活は泳ぐ食べるの他に、ご主人の観察という項目が増えたのだ。

ほら。つまらなくはないだろう?
私が見聞き出来るのは水槽がある食事を作る場所とテレビなどが置いてある広い部屋だけだが、それでも十分にお二人の姿を見れば幸せな気分になれる。
ああ、申し訳ない。主人の名前を分けなければ判りづらいな。部屋の主人がカイトさん、掬い上げた方の主人が凌牙さんだ。お二人は名前で呼び合っているから、残念ながら名字と言うものまでは分からない。もしかしたら、同じ名字かもしれないが。

どうして同じ名字かもしれないと言えるのか?ううん……、私の勝手な想像もあるのだがテレビから得た情報だと、人はツガイになると名字を同じものにするのだろう?
お二人の関係はツガイ……人間の言葉で恋人同士と言うらしいからだ。よくソファに二人で座り幸せそうにしているよ。あと口付けも、カイトさんが凌牙さんに何度もしたりして、終いには凌牙さんが私のように赤くなってしまったことも多々あった。

人とはやはり私たちとは違いずっと奥手のようだ。魚も猫も他の動物だってツガイが見つかれば直ぐに繁殖や子育てだろう。……私は独り身だが。ごくたまに、カイトさんが凌牙さんを床やソファに押し倒す場面を見たことがあるが、何時もその後は凌牙さんが奥の部屋に持ち運ばれてしまっているから顛末は分からず終いなんだ。何をなさっているのか、次の日はやけにカイトさんは上機嫌であるし、凌牙さんも腰が痛いと言いつつもやはり幸福そうで。お二人は繁殖よりも二人で過ごす時間の方がお好きなんだろう……え、お二人は同性だから繁殖は無理……?凌牙さんは雌ではないのか……!?あれだけ私を可愛がってくれる愛くるしい方が……そうか、人とは奥深いな。

……取り乱してすまない。そうだな、お二人が幸せならばそれでいいんだ。
金魚は満腹知らずな魚だが、お二人のやり取りを眺めていると満足感を得られる。何を慌てることがあろうか。


さて。ご主人の事についてはこれくらいだろう。見ての通り、この水槽は私と新入りの君との住み処になったが、仲良く泳げれば幸いだ。私も仲間が増えて嬉しいよ。

ご主人もお似合いの二人だから楽しくなるんじゃなかろうか……ん?ショップで水槽を眺めている時からお似合いだと思った……成る程、君とは良い餌が食べられそうだ。
私の経験から紫色の髪をしたご主人……凌牙さんがじっと観察して金色の髪のカイトさんはその凌牙さんをじーっと熱のこもった目で眺めていただろう。カイトさん、何を見に来たのやら……観察している私が言えたことではないが。

その顔だと当たりのようだね。お互いにこれでもかと言うほどに惚れ込んでいるからな。
……ああ、噂をすればご主人が帰ってきた。今日も随分とまあ幸せそうな顔でいらっしゃる。


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