神代邸に七皇が共同生活している前置き。





夕食を済ませ、各々が部屋で好きに寛いでいる時間。ベッドに腰掛け遊馬から来ていたメールに返信を打っていると、凌牙の部屋の部屋の扉が控え目にノックされた。

「すまないナッシュ。少しいいだろうか」

「ドルべ?」

ドア越しのくぐもった声に、どうかしたのかと凌牙は瞳を瞬かせ足早に扉を開けて彼を部屋へと招き入れる。
扉の向こうに立っていたドルべは私服ではなく、何故かハートランド学園の制服を着用していたので更に不思議に感じた。

「どうしたんだよ」

そんな格好で、と彼を見れば何時もの凛とした顔は何処へやら、眉を八の字に下げなんとも申し訳なさげに視線を逸らす。
滅多にないドルべの姿に首を傾げぽかんとしてしまうのは、彼から恋愛感情に限りなく近い親愛を受けている凌牙とて予想外だった。

「その、実は」

「ああ、」

「ナッシュ。君にしか頼めない事があって来たんだ、が」

いつも颯爽として迷いのなさそうなドルべは今は外出でもしているのだろう。おずおすと恥ずかしそうにしてる。
その姿に驚く凌牙をみながら、彼は片手に持っていた青く細長い布を出して凌牙の前に掲げ。

「ん……? これ、制服のネクタイじゃねぇか」

「ああ」

「……おい、ドルべ。まさかお前、」

「み、ミザエルもまだ結べてはいないぞ!?」

「まだ俺は何も言ってない、……悪かった。そんな落ち込むとは思ってなかったんだ」

目に見えて落ち込んだドルべに凌牙は小さく苦笑いを溢した。
どうやら制服のネクタイを上手く結べない事が、ずっと気掛かりしていなかったらしい。蝶々結びなら出来るのだが、と言うドルべに堪えきれず肩を震わせる。

「ふ、ふふ……!わ、分かった、俺で良いなら結び方教えてやるよ」

「!助かる」

笑う凌牙を見てもドルべは何故だか至極嬉しそうに声を出した。
彼の手から青のネクタイを渡され、凌牙は少し顔を下げドルべの首もとへ視線を落とす。一方、自然と密着に近い距離になった凌牙に、ドルべは生唾と息を飲んだ。
甘くふわりとした香りがドルべの鼻孔を擽る。同じものを使っているはずなのだが、凌牙から香るものは特別のような気がした。

「ここをこうして……どうした?」

しゅるしゅると手際よく結び方を見せていれば、不意に頬を撫でられ凌牙は顔を上げる。近距離でかち合った視線に、どちらともなく恥ずかしさが込み上げた。

「い、いや!……君にどうしても触れたくなってしまって。すまない」

「俺、も。その、お前に撫でられて嫌じゃねぇし」

ふい、と視線を逸らす凌牙へ、ドルべは嬉しそうに纏う空気に花を乗せる。


「大体、覚えられたよ。ありがとう……その、ナッシュ」

数回結び方をぎこちなくも教えれば、ドルべは優しく微笑みネクタイに掛かっていた手を取った。そして彼は幾らか視線を逡巡させた後、凌牙の名を呼んだ。

「ん?」

「君に教わったから……今度は私が、君の心身に……気持ち良い事を教えてもいいだろうか?」

一瞬、凌牙は言葉を無くした。ベクター辺りが笑いながら好んで使いそうな言い回しをドルべの口から聞いたのだ。
耳を疑うとはこの事か、と身に染みて体感した。
そのベクターに吹き込まれでもしたのかなどと考えたが、じっと凌牙を貫くドルべの目は冗談の色を映さない。真面目、の三文字が頭のなかで踊り、凌牙は数秒の混乱の後大きく溜め息を吐いた。
諦めではなく、誘いに乗ってしまう自分への呆れが籠っていた。

「……あんまり激しくすんなよ、ドルべせんせ?」

「っ!?」

ぼぼぼ、と顔を一気に赤らめるドルべに凌牙はゆるりと微笑みを返し、羞恥心をかなぐり捨てきゅう、と抱き付いた。


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ドルべは真顔で下ネタを言うと思うの
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