オレンジ色の皮に、ニタリと笑うように三角と弧の字に彫られた二つの目と口。秋口になるとよく目にする季節限定のインテリアと化したカボチャ、ジャックオーランタン。
今にも笑いだしそうなランタンはハロウィンが近いからか、凌牙が座っている喫茶店のテーブルにちょこんと置かれている。中身をくり貫く為にヘタの部分が蓋のように乗っているその隙間には、秋咲きのアザミの花が添えられていた。

凌牙はちょっとお洒落をしたジャックランタンと、目の前で優雅にカップを傾け紅茶を飲んでいる男を交互に見ていた。
この意地悪げな笑い方のジャックランタンと眼前の不本意ながら凌牙の恋人である男……Wがどうにもこうにも似ているように見えて仕方なかった。
シックな服装に伊達眼鏡を着けた姿は性格と相反した真面目さを醸し出しているのだが、眼鏡と服装でここまで人は騙せるのか、と変に感心してしまう。

「なぁ……さっきから俺見てるけど、どうしたんだよ。まさか凌牙、俺に見惚れてたのか?」

「は?そんな訳ないだろ。お前の外面の良さに引いてんだよ」

先ほどから凌牙の視線に気付いていたらしいWだが、軽くあしらわれ肩を竦め。
あしらわれるのは慣れてしまったのか、ややあって「素直じゃねェな」と笑われる。見つめてくる彼のラズベリーの瞳は凌牙へのいとおしさで満ちていて。

「……本当にそっくりだ」

意地悪な癖に、つい視線をやってしまうところがそっくりだ。目の前の男はジャックランタンほど可愛らしくはないのだけれど。照れ隠しのように呟いてしまう。

「何かと見比べてたのか」

「まあ……。コイツ、と」

さくりと手元のパンプキンタルトを咀嚼しながら、テーブル上で笑っているカボチャへ目をやる。
凌牙側を見ていたカボチャは、Wの手によってくるりと彼の方に向けられてしまった。そして、カボチャとにらめっこを始出すWに凌牙は肩を震わせる。

「ふ、W、なに、してんだよ……っ」

「いや、似てねぇだろ。俺の方が財力もあるし顔も良い」

「カボチャとそこまで張り合うか普通」

だったら浮気すんなよ凌牙、とまで言われ今度は凌牙が怪訝な目でWをみた。

「浮気なんてしてないだろ」

「当たり前だ、俺は気に入ったファンは手離さないからな。特にお前だけは、絶対に」

「……知ってる」

じっと真剣な顔で告げられた言葉を、凌牙は目元が熱くなるのを感じつつ肯定する。Wの言葉は、目の前の洋菓子よりも甘ったるい。
すっかり冷めてしまったホットココアに口をつけ、満足そうに笑うWを視界から逸らした。

「へえ。このジャックオーランタン、洒落た花を飾り付けてるんだな。青紫か、お前に似合いそうな色だ」

「アザミの花だろ。ソイツ、棘があるから触らない方がいいぜ」

暗に触って痛い目をみろと言う意味を混ぜた言葉に、Wは口元をひきつらせた。

「俺の恋人の棘の方が痛いっての……」

「その棘のある恋人が好きなのはお前だろ、トーマス」

「っ……、お前、時々凄い卑怯なデレを寄越すよな……!」

ハロウィンは覚悟してろよ!と唸るWに、それは此方の台詞だと凌牙は微かに照れながら言い返した。

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