真白の雪がこんこんと降り積もる。とさ、と微かな音をたて葉を落とした広葉樹の枝から積もった雪の塊が落ちた。

吐いた息が白く染まる。静かに雪の降る景色を眺めていれば、爪先からじわじわと寒さが這い上がってくるのがわかった。

「……」

それでも窓を開けたまま、凌牙は白に染まる景色に魅とれた。
夜ということもあり、雪に一切の音が掻き消されたかのような錯覚すら覚えた。静まった空間は不思議と落ち着くものだ。勿論、寒くはあるが凌牙はそれを気にもせず景色を焼き付けるかのように見ていた。

「ナッシュ」

「……ドルべ?」

不意に背後から凌牙を呼ぶ穏やかな声が静寂を遮る。振り返れば眉を八の字にしたドルべが厚手のカーディガンを片手に側へ来た。

「ずっとそんな薄着で見ていては風邪をひいてしまうよ」

「悪い。つい見いってた」

「ふふ。熱心に景色を見つめている君の姿を見られたから、此方が礼を言うべきだろうな」

爽やかな笑みで、ドルべは手にしていたカーディガンを凌牙の肩に掛けると「凄い、真っ白だ」と窓の外の世界を見て感嘆混じりの声を上げる。

「ナッシュが見惚れるわけだ。とても静かで、心が落ち着く」

凌牙の隣に並び立ち、彼も白い吐息を雪の降る景色の中へ消す。

「これだと明日の朝が大変だ」

「子供が雪だるま作って街に溢れ返るしな」

「雪だるま?それはなんだい?」

バリアン世界に長くいたドルべは、前世に住んでいた場所の気候もあり雪自体が珍しいらしく、雪だるまと言う単語に首を傾げて見せる。
説明を求められ、どういうべきか、凌牙は難しい顔をする。

「あー。雪玉を作って、大きい雪玉の上に小さい雪玉を乗っけて顔を作るんだ。国によって作り方が色々あるらしいけど」

「なるほど。それが沢山並んでいる景色も中々面白いな」

そうは思わないかい。とドルべが凌牙へ柔らかく笑い掛けた。その優しい眼差しを向ける顔には、幸福の二文字が踊っているような気がする。

デュエル以外じゃ本当に顔に出やすい、嘘を吐けない奴だ。とドルべの視線を擽ったくも感じながら、凌牙は声を出す代わりにおずおずと隣で立つ彼へそっと寄りかかった。

「……可愛い甘え方だ」

「……そうかよ」

「ああ」

凌牙の腰にドルべの手がまわる。暗にもっと此方へ寄りかかって構わないと言われた気がして、頬がじわりと熱くなる。

「ナッシュ、君は雪の中で咲く椿の花のようだね」

「なんだそれ。詩人気取りか?」

「まあそうなるのかもしれないな。雪の中で凛とした赤い色を付ける寒椿というものは、本当に美しいそうだ」

寒冷という苦境にも負けずに艶やかな花弁を綻ばせる姿が君と重なる。
酷く嬉しげな声音で囁くものだから、凌牙は静止の声を出すタイミングを逃してしまった。そうなれば、幸せそうに話すドルべの独壇場だ。

「こんなにも美しい花を愛せて、私は幸せだよ」

「っ、っ!」

耳まで熱をもち、胸が痛くなる。窓を開け寒いはずだというのに、その寒さはドルべの放つ幸せな空気に霧散してしまった。



寒椿は椿と違い、ぼとりと落ちない種です。
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