御幸said


待ち合わせしていた購買の少し先の柱に茶色いカーディガンを羽織ってその上にブレザーをきて居る人を見つけた。

花子先輩?

確信が無かったから少し慎重に近づくと、俺があげた、光に反射するとキラキラ光る髪ゴムを付けて立っていたから、嬉しさがじわじわ込み上げてくる。

「花子先輩」

俯いてたっている花子先輩の顔を覗き込んでいたずらっぽく読んで見ると花子先輩は、はらはらと涙を流した。

「っ、」

脆かった崖から崩れ堕ちた気がした。
視界が真っ暗になって、体中がズキズキ痛い。はらはら流れる涙を拭って抱きしめたいのに、キスをして柔らかそうなあの薄紅色の唇に俺の想いをぶつけたいのに。
動けなくて。

泣きたいのは俺だって同じだよ。
先輩。

何も出来ないで居ると花子先輩が俺の制服の裾を引っ張った。

「ごめ、ん。」

「……何が?」

にっこり笑って先輩の肩をぐいっと寄せるスマートな素振りをすると先輩はくすりと笑ってなんでもないや。と言う。
そしてお弁当、と俺に渡すと頑張って作ったから。

「食べて?」

小首を傾げて言う先輩は、本当に先輩なのだろうかと思うくらいあどけない笑顔で俺にお弁当を渡す。



この人は本当に残酷だ。



俺がそれでいいと言った。
好きじゃなくていいから、付き合って。
でも、やっぱりキツイな。と自嘲気味に笑って俺はお弁当を受け取った。

「先輩は、俺の何処が好き?」

美味しそうにお弁当を突っつく先輩の横顔を盗み見ながら残酷で綺麗なこの人に俺もわざと質問をする。
先輩は、俺の顔を見ると儚げに笑う。

「…何も聞いてこないところ、私を好きって言ってくれるところ、……かな」

俺は、その時ここが食堂だと言うことを忘れて先輩に精一杯の想いをぶつけていた。

「っん!」

「……っ」

初めてのキスはスマートにカッコ良くしたいと思っていたのにこのザマで心の中で苦笑する。

唇が離れると先輩は暫く呆然としていた。

「…み、ゆき」

「………謝んないから」

そう言って俺は先輩の作ってくれたお弁当を口いっぱいに頬張って食堂をあとにした。

花子先輩の作ったお弁当は美味しくてやっぱりこの人との未来を想像して、離したくないと思った。

食堂から離れて廊下を歩いて居ると、純さんと哲さんとバッタリ出会ってしまう。
気まずい、とはもう思わなかった。

俺は哲さんがさっき食堂で俺と花子先輩がキスしたのを見ていたことを知っている。そこで目が合うと先輩は苦虫をかみつぶした様な顔をして食堂を後にしたことも。

「……」

無言で通り過ぎようとする哲さんとのすれ違い様、俺は嘲笑した。

純さんがチッと舌打ちをして、哲さんが俺を見る。

「……本気ですから」

「……」

「謝りませんから」

「……」

「先輩と、キスしたこと謝りませんから」

歯を食い次張りながらそう言うと哲さんは、っ、と息を飲み込んであぁ、と低い声で返事をした。
それを聞くと俺はスタスタと早歩きでその場をさると、階段の角を曲がった。
言いようのない黒い塊が胸や喉に詰まって吐き出したいのに吐き出せなくて俺はただ歯を食い次張って耐えるしかなかい。
覚悟していたのに。愛のない関係が耐えられない。

俺は愛おしい人の名前を嗚咽と一緒に呼んだ、