御幸said


山田先輩がいた場所を何となく振り返って見るとまた冷たい風が吹いて俺は身震いをした。我ながらクサイ事をしている。この恋賭けに勝ち目がない事も知っているのに俺は望んでしまうのだ、あの人との未来を。

「…さむ」

俺はぎゅっと身を縮こませて歩き出した。


寮へ戻り、溜まっていた洗濯物をみて絶望した俺は洗濯をしようと脱衣所へ向かった。
すると主将の哲さんが洗濯物をブンブン振り回して水気を飛ばして居るのが目に入り愕然とした。

人間乾燥機……!

じゃ、なくて。

眼鏡に飛んできた水滴で目の前の人物が歪んで見える。

「…?御幸か」

袖で眼鏡を拭いて軽く返事をする。

「……俺、花子先輩と付き合う事になりました。」

正確には、友達以上恋人未満ってやつだけれど。
少しは先輩に意地悪をしてもいいんじゃないだろうか。そんな悪魔が囁いて俺は嘘とも言えない嘘をついていた。
花子先輩と幼馴染みで小さい時から先輩の心を独り占めしているんだから俺が少しくらい先輩を独占して哲さんを揺すぶらせてもいいんでは無いだろうか。

グッと手に力を入れると、哲さんが重々しく口を開いた。

「………そうか」

おめでとう、でも何故、と聞くわけでもなく、ただ哲さんはそれだけ言って俺の肩に手を乗せた。

「幸せにしてやってくれ」