好きだと言ってくれた。
私のことを、俺を好きじゃなくてもいいから俺の事を見て。と、私の両頬をひんやりと冷たい手が包み込んだ。じわじわと広がる夜の冷たさは雪が降り積もるようにずっしりと私達に重くのしかかった。

「つめたいね。」

私の手も冷たいけど。
そういいながら私は冷たい御幸の手に私の手を重ねた。
御幸は少しわらって、そのまま私の手と自分の手を絡めた。

「こうしたらきっと暖かくなりますよ。」

「ふふ、そうだね、」

「ねえ、山田先輩?
賭けをしませんか」

不意に進み出した足を止めて御幸はいう。
私は首を傾げて御幸の次の言葉を待つ。

「先輩が俺に堕ちるか。堕ちないか。」

どくん。
と脈を打つ心臓に御幸の左手がちょん、とあたった。
カラカラに乾いた喉からは曖昧な笑みがもれて、御幸が山田先輩は素直ですね。と笑う。

「‥‥ごめ、ん」

すきだよ。と、言えなかった。
私も、御幸が好きだよ。
そういいたいのに、言えたらいいのに、言えなかった。

悔しくて唇を痛いほど噛み締めると御幸がそれでもいい。と青道の寮がある方を見ていう。

「それでもいいです。先輩を絶対振り向かせますから。山田先輩____…」

ザァッと吹いた秋風に御幸の声がかき消され、え、と問いなおそうとした時、御幸が切なそうに笑ったのをみて私の息がつまり、何も言えなず立っていると、御幸はパッと繋いでいた手を離した。

「さ、そろそろ俺もう寮に戻るんで。先輩は早く帰ってください。風邪ひきますよ」

「え、あ、」

「気を付けて、……花子先輩」

少し戸惑った素振りを見せると、御幸は照れたように私の名前をよんだ。
私はそれにクスリと笑ってうん。またね。と手を振り返した。


暗くなった空には秋の虫の音がリンリンと響いていた。