喧嘩


「ええ加減にせえよ!!」

部長が、怒鳴った。

いつもならここで素直にゴメンナサイをする謙也さんも今日は何故か刃向かっていく。

「なんやて!?」

取っ組み合いの喧嘩を俺らはぼーっとみる他なかった。
あーはよ部活やろうや。

よく謙也さんが言い合いになっているのは見るが部長がこんなに感情的になっているのはあまり見た事がない。
金太郎を脅すときでも口元は笑っているし…目は笑っていないが。
とりあえず、部長は喧嘩はもっぱら宥める方であった。

二人が汚い言葉を浴びせあう中、千歳先輩は金太郎の耳をふさいでいる。
ほんま、何があったんや…。

面倒くさい、というよりなんだか怖かった。
謙也さんだっていつもは弄られて沈む専門なのに。こんな怖い二人を見たことはない。

「なあ二人とも、なにしとんのー?」

千歳先輩を振り切った金太郎は部長と謙也さんのもとへ歩いていく。
部長は謙也さんのユニフォームの襟首を左手一つで捻り上げながらにっこりと笑って金太郎に答えた。やから目笑ってませんて。

「んー、金ちゃんはちょっとあっちで遊んどいてな」

金太郎はそのあやふやな答えに不服なのか、今度は謙也さんに聞こうと謙也さんのほうを向いた。

「なあ謙也ー、って謙也めっちゃ顔青いやん!!毒手のせいなん!?」

金太郎の言葉で謙也さんを見ると、喉を圧迫されており確かに真っ青になっていた。

「じゃあもう喧嘩ばやめるったい。ね?」

千歳先輩が部長に優しく言い聞かせると、部長は左手を広げて謙也さんは見事に地面とキスをしていた。

「謙也、続きは外でやろか」
「…当たり前やろ」
「まだやるんかい!」

ユウジ先輩が俺らの気持ちを代弁してくれ、第二ラウンドが始まろうとしていた…その時だ。

「二人とも喧嘩せんといて…」

目に涙をいっぱい溜めて金太郎がそういうと、金太郎に甘い三年生二人は喧嘩を止め、仲直りの握手を済ませて部活に向かった。

「金太郎ようやったな」

ラケットを握ってないほうの手で頭を撫でると無邪気な顔で笑って金太郎は言う。

「ちょろいな」

……え?

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