水合戦
「暑いんじゃけど」
当然のようにいいのけたのはこの男、仁王だ。
暑さにめっぽう弱く、そのうち溶けてしまうのではないか、という心配さえされていた。
その代わりといってか寒さには強く、真冬だというのにカッターシャツにカーディガンだけというファッションスタイルを見せてくれた。見てるこっちが寒くて比呂士に怒鳴られていた。
ちなみに今は幸村くんの家だ。クーラーが適度にきいており、俺には丁度よかったのだが仁王が暑い暑いいうので幸村くんがついにため息をついた。
「じゃあねえ、ほら」
みずでっぽう〜とだみ声でいった幸村くんの手には確かに2つ水鉄砲が握られていた。
「去年買ったのがあってよかったよ」
「でも2つじゃ…」
「じゃあ俺は柄杓でいいや」
ひ し ゃ く ?
柄杓ってあれか?道路に水まくときとか、神社で手を洗うときに使う…。
俺の疑問は外に出てすぐに解消された。
幸村くんと一緒に外にでるとバケツに並々水を注ぎ、既に用意されていた柄杓はやはり思った通りのものであった。
仁王はいきなりテンションがあがり、レーザービーム!といって水を連射している。
「ルールは10分で相手をびしょぬれにしたほうが勝ち、水くみは三回まで。柄杓!って叫んだ相手と違う相手に俺が水かけるからね。柄杓も三回まで。OK?」
つまり、俺が柄杓!と叫べば幸村くんが仁王に柄杓の水をかけるわけか。おーけいおーけい。
「先手必勝!」
「ぎゃっ」
びしゃりと顔面にまず一発くらう。視界が水で遮られ、拭おうとしている間に仁王が柄杓!と叫んだ。
目が見えないまま幸村くんに容赦なく水をぶっかけられる。
「天才的だろぃ?」
ってそれ俺のセリフだから!
くっそう…!
「あっ!」
しゅばっと明後日の方向を指さし、まんまとその方向をみた仁王に水をかける。そのまま仁王にかけられないように電信柱にかくれ、仁王に容赦なく水をかける。
柄杓!と叫び、幸村くんに水をかけてもらっている間も休みなく水をかけ続ける。
「どう?天才的ぃ?」
「なんか地味じゃ」
「仁王の作戦のほうがかっこよかった」
いやひどいだろぃ!
幸村くんと仁王はまだひそひそと俺の悪口を言っている。丸聞こえだからな二人とも!
「隙あり!」
こちらを指差しながらなにやら言ってる仁王めがけて水鉄砲の引き金を引いたつもりだったんだけど、あれ。
びしょ濡れになった幸村くんの首が、ゆっくり、こちらを…。
「覚悟はいいよね?」
幸村くんが構えたら柄杓でもなんでこんなにキまるんだろう。