食べ物のうらみ


蝉の声が遠くに聞こえる。…もう、夏だ。

冷え性だからといって夏が涼しいわけではない。憂鬱になりながらもラケットを手に持ち、コートに向かった。機嫌はすこぶる悪く、誕生日というのにいつもより悪かった。

「なあ許してや〜」
「しゃべりかけないで下さい」


そう、このひよこ野郎は人のとっておきの善哉(なんと一個350円だ)を食べてしまったのだ。そしてこのボンボンはなんと"善哉くらいいつでも食えるやん"といいのけたのだ。
めっっちゃ腹立つ。

去年女子からのプレゼントは善哉以外受け取らなかったからか、女子は善哉しか渡してこなかった。勿論その中にはあのひよこが食べてしまった善哉も入っていたのだが自分で買ったのと人から貰ったのでは価値が違う。


謙也さんの声を全て無視して練習に励んでいたらすぐに終了時間となった。部長が二言三言アドバイスをしてありがとうございました、という。続けて俺ら部員もありがとうございましたといって練習は終わりだ。


「じゃっコート整備やろか」
「は?」
「"は?"やなくて。今日俺と財前、当番やろ?」

ニコニコと部長は有無をいわさぬ笑顔でコート整備の道具を差し出してきた。頑なに受け取ろうとしない俺にどうしたん?と聞くのもすぐであった。

「今日、俺誕生日なんですよね」
「そらおめでとうさん。はい」
「……。」


仕方なく道具を受け取り、コートを整備していく。

一応掃除当番は決まっているものの、いつもは部長が残ってやるのでコート整備はだいたい部長の仕事だ。
俺に手伝わせるということは今日はタコヤキでも一緒に食べにいくのだろうか。善哉たかったろっかな…。


「じゃあ、この道具直しといてな。」
「…はい。」

半ば無理やり道具を押し付けられ、むすりとしながら倉庫へ向かう。
肩をならしながら早速善哉を食べようとドアノブに手をかけ、扉を開けたとき、


「は?」


部室は真っ暗だった。
部長か?ほんま変なことすんなぁ。
携帯はロッカーのため、手探りで電気のスイッチを探す。


「うわっ」

…探していると、何かにお腹を掴まれた。この背丈からすると……金太郎?


「まだ帰ってへんかったん?」
「ちぇ、気付くの早いわー!!」

パチンという音に続いて電気がつき、先輩たちがニヤニヤと笑っていた。

「…キモイっすわ」
「へへーん。ほら、プレゼントや」
「ヘッドホン?」


それはずっと前から欲しかったものなのだが、高くてなかなか手が出せなかったものだ。

「みんなで金出し合って買ってん。頑張ってや次期部長!」
「謙也さん…」
「ん、財前泣くんやったら胸かしたんで?」

下を向きながらゆっくりと謙也さんの方に近付く。言った本人が一番驚いていたが、周りも負けず劣らず驚いていた。

「謙也さん、」
「ぐえっ!!」


勿論、泣いているわけもなく腹へ一発、右ストレートをかます。

「無理やりいい感じにしようたって俺は善哉のことは忘れてませんよ」
「う、すまんって…」

パシャリと写メの音が聞こえたが今日は許してあげよう。なんたって、俺が生まれた日なのだから。



happy birthday 光!
20120720

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