観察
大きな書店によるべく、いつも通らない道を通って帰っていたときだった。
前から欲しかった本を無事ゲットして、帰宅しようと柄にもなくうきうきしていた。
「ん…?」
あれは、仁王?
部活が終わってからだいぶ時間がたっているというのにまだ制服だった。仁王の家はこのあたりなのか…ふむ。
いい機会なのでめったにとらせて貰えないデータをとるとするか。
仁王はまわりを気にしながら一軒の家に近付いた。俺も仁王に気付かれないようそっと後ろにまわり、様子をうかがう。
すると仁王は窓辺の猫(茶トラ)に向かいゆっくりとまばたきをした。
この行為は挨拶らしい。すると、茶トラも同じようにまばたきを返す。
仁王は小さく、あっと声をあげ、嬉しそうに笑いながら猫に手をふってその場を後にした。
それから公園にはいっていき、ベンチの前にかがんだ。そしてスクールバックから猫じゃらしをだして左右に振る。
するとベンチの下から可愛らしい白いもふもふの腕がぴょこりと出てきて、仁王の猫じゃらしを夢中で追いかけた。
仁王は慣れた手つきで猫じゃらしを跳ねさせたり上下に移動させたり隠したりと動かしていく。
やがて一匹だった猫が三匹ほどに増え、約15分後に猫じゃらしをしまった。
「今日はここまでじゃ、また明日な」
そういって公園を後にした。
「いるんはわかってるんじゃ、はよでてきんしゃい」
「!」
流石詐欺師、というべきか。ノートを閉じ、がさりと出て行く。
「!…参謀じゃったか」
「ああ、いつから気付いていた?」
仁王は一瞬驚いたような素振りをしたがすぐ普通に戻った。大方、ついて来ている人はわかっていたが誰かはわかっていなかったのだろう。
「ハナちゃんの所からじゃ」
「ハナちゃん…?あの茶トラのねこか」
「そうじゃ」
つまり、俺は仁王に遊ばれていた、という訳か。…ふむ、面白い。
「(まんまと騙されてくれたナリ…。上手く誤解してくれたようじゃな。あのセリフはタマちゃんにいったものじゃのに…。ま、結果オーライぜよ)」
「次は必ずデータをとってやるからな」
「とれるもんならとってみんしゃい」