しんじゃった
※死ネタ
氷のたっぷりつまったアイスコーヒーをストローでくるくると回す。
暑いなかゆっくり歩いてきたせいか額には汗がにじみ、涼しいこの店内の空気はありがたかった。
いつも何かを食べている丸井でさえ、表情を曇らせながら、ぼうっと座っていた。
コーヒーはなんだか飲む気になれなく、だんだんと氷が溶けていくのを眺める。
数分がたち、丸井が口をあけた。
「自殺…だってよぃ」
知っていたことにはそっか、なんて愛想のない返事しか出来なかった。
仁王が自殺した、というのはすぐに学校中に広まった。
夏休みにはいる少しまえ。
いきなり屋上から飛び降りたそうだ。
遺書もなにもなく、ただ一枚の紙だけがぽつんとおいてあったそうだ。
文頭は"テニス部のレギュラーへ"だった。
丸井がポケットからくしゃくしゃのその紙をだし、テーブルに力なく置いた。
紙には、見慣れた仁王の小さいきれいな字でたった2、3行だけ書いてあった。
"俺は、負けたくないんじゃ"
"立海三連覇に死角はいらない"
氷がからんと音をたててまた一つ、コーヒーに沈んだ。