大食い
「みんなお疲れ様!」
練習試合を終え、幸村がそう声をあげると解散の合図だ。
「あ、レギュラーは残ってね」
「え?」
お腹を空かせたブンちゃんはてっきり帰してくれるものだと思いさっそくお菓子を口に含んでいた。
「ああいいよ食べてて。みんなもお腹空いてるよね?」
にこやかにそう聞く幸村に参謀の眉が少しよる。…まあたろくでもない事か。
「はい、空いてますよ!やばいです!」
赤也がそういうと幸村は満足そうに笑って、側のラーメン屋を指差した。
「大盛ラーメン、食べきったら食事代無料、だって」
ただより怖いものはない。しかし幸村ほど怖いものもないわけで、俺らは言われるがまま挑戦することになった。
「いいかい?ここはみんなのチームプレイだ。蓮二」
「ああ」
いつも以上に気合いの入った顔で幸村は参謀を呼ぶと、参謀はさっとノートを開いた。…そんなことまでデータにあるんか…。
使い込まれたノートをみると達筆な文字がずらっと並んでいた。
「まず一番は真田だ」
「え?俺じゃねぇのかよい」
「丸井には熱すぎない温度にしてから沢山食べてもらう。だから四番手だ。」
「なるほど」
そうと決まれば、ブンちゃんはもっていたお菓子の箱をカバンに直しスクワットを始めた。
「ちなみに汁まで飲まなければならないからな」
「げっ、俺はやじゃ!」
「俺も汁はやだな」
病み上がりの幸村はもちろん、そんなカロリーの高いもの食ったらしばらく動けんくなる。
そう参謀に伝えると、分かっているとかえってきた。さすがじゃな。
「ジャッカルが八番、精市が三番、仁王が七番。赤也は五番、比呂士が二番。そして俺は六番だ。」
一番 真田
二番 柳生
三番 幸村
四番 ブンちゃん
五番 赤也
六番 参謀
七番 まーくん
八番 ジャッカル
頭の中で整理し、いよいよ立ち向かう。
「…でかいっすね」
「まーくん無理。こんなん食えんわ…」
「健康に悪そうだな…」
「超うまそうじゃん!」
「たるんどる!」
「本当に食べきれるんでしょうか…」
「みんな頑張ってよ」
「精市、お前も頑張るんだ」
各々の意見が出揃い実食となる。時間制限は三十分。ぶっちゃけ無理じゃろ…。
でかさは想像にお任せするが並大抵ではない。
「では、いただきます」
真田がずるずると麺をすする。熱そうじゃな…。
数分後、柳生に代わる。しかし麺の量は依然として減らず、苦しそうな柳生と幸村が交代。
幸村は小食そうじゃ…な…?
信じられない光景が広がっていた。一瞬で麺が、チャーシューが、ネギが、消えた。
「なんだ結構少なかったね。はいブン太、ちゃんと汁飲んでね」
参謀が理屈じゃない、と呟いたのも分かる気がする。