白い部屋
※暗い
そこは真っ白だった。
つんとした消毒薬の匂いが鼻につく。
唯一の色は花瓶にいけてあるお見舞いの花だけだろうか。
…頭がおかしくなりそうだった。
枕カバーもシーツも白くて、これが赤く染まったらどんなに綺麗だろう、と。そう思った。
一時帰宅を許されたときにこっそり持ってきたカッターを取り出して刃をゆっくりと出し、腕に押し付ける。
ひんやりとしていた刃も次第に暖かくなり俺に馴染んでいく。
力を入れて思い切り引こうとすると、いつも足音が聞こえてくるのだ。
複数であったり単数であったりと日によってまちまちだが、必ず俺を止める。
バレたら面倒くさいので枕の下にそっと隠して何事もないようにその上に頭を載せた。
「幸村!」
やかましくも頼もしい友人はいつも俺を救ってくれるのだ。
夜が嫌いだった。
消灯の時間になり、電気を消すと不安ばかりが俺を苛む。
自分は邪魔なのではないか、自分のせいで大事な練習時間が削られているのではないか、と。
そんな時俺は枕の下に手をつっこみ、カッターを握る。軽いこれは少し力を込めるだけで命を奪ってしまう。
手術の日が近付くと俺は手術が失敗してくれ、と願うようになった。
そして殺してくれ、と。
しかし手術は成功した。リハビリはとてもつらくて、逃げたくなった。でも逃げなかった。
テニスのために。三連覇のために。
カッターは、捨てた。