疲れつつも、
ずるずると引きずられても睨み合いを続ける二人は、未だに俺の腰にしがみついて退いてくれない。
だから擽ったいんだって。
腰元を擽るさらさらな髪と小さい手に文句を言いたくなったけど、何か言ってまた泣かれたら厄介だ。
擽られる度、微かに身を捩るだけにしておいた。
玄関へと引き返す廊下の右側、つまり玄関から入ったときの左側にある扉の前に立ち、二人を邪魔だと思いつつ取っ手を引き中に入る。
もちろん、扉の幅を考えて、両サイドの二人が縁に当たらないよう身体を斜めに向けてだ。
『あまりいじるなよ』
軽く外出する時の服を置いてある部屋だったから、あまり何も置いていない場所ではあるが、一応気をつけておこうか。
扉を閉めて部屋の電気をつけたあと、腰元にいる二人の頭に手を乗せた。
そして諭すように注意すれば、こくりと動く頭。
「わかった」
「了ー解!…お、何だこれ」
『……ラグナ、人の話聞いてたか?』
しかし、良い返事をしたにも関わらず数秒経ってすぐ部屋の中を物色し始めたラグナ。
おいおいこらこら何やってんだ。
まぁたかが服や装飾品しか無いから、別に壊さなかったら…良いか。
『スコール、別に怒らなくて良いから。物壊しそうになったら別だけどな』
るんるんと珍しいのか周りの物を手に取るラグナを無言で睨み続ける姿に笑いかける。
スコールは全く気にしていない様子の俺の言葉を受け、些か納得がいかないようだったけど小さく頷く。
聞き分けの良い子だなー。
よかったよかった。
『壊すなよ、』
「はいはいーっと!」
『頼んだぞ』
「あぁ、」
了承した二つの頭に軽く触れて、木目がある焦げ茶色のクローゼットへと服を取りに行く。
後ろでラグナがごそごそと物色している気配に笑いながら、閉ざしていた戸を開けて服を選んだ。
適当で良いだろう。
取り敢えず真っ先に視界に入ったフードが付いた薄手の黒コートを手に取り、次に白い長袖をハンガーから外す。
黒い半袖から白の長袖が見えるこの服装、意外と好きだったりする。
だからだいたい外に出るときは上は半袖で下は長袖だ。
「おい何見てるんだ。そんな目で見るな」
「え、だって…いや、だから、別に変な意味で見てるんじゃなくてだな……!!」
最近任務ばかりだったから買い物なんて久々だなぁ。
何だか楽しくなって鼻歌を歌っていると、背後で何やらもめている様子の二人。
ん?見られたらやばい物は…ない、よな。
俺はエロ本もAVも見ない主義だし、見たとしてもこの部屋には置かないしな。
もぞもぞと長袖を着ながら不思議に思い、確認の意味を込めて後ろに目を向けてみる。
すると、ばっちりと合った翡翠色の瞳と空色の瞳。
凄いな、二人同時に視線が合ったぞ。
『何か変なものでも見つけたか?』
微かに違和感がある場所を引っ張り服を着つつ、クローゼットの戸を閉める。
焦ったように目の前で両手を前に出しかぶりを振るラグナと、その後ろで何故か目尻をつり上げているスコール。
何だかとってもラグナの身が危ない気がするのは、俺の杞憂か?
「ち、違う違う、何も見つけて…っ!?や、止めたまえスコールくん!ちょ、ぎゃあ!!」
『は!?お、おいスコールっ!?ラグナ君!!?』
「………………、…」
やはりと言うか何と言うか。
俺の予想は当たり、杞憂には終わってくれず。
スコールが素早い動きでバッ!と動いたかと思うと、よく分からないけどうっすらと顔が赤いラグナの目を両手で……隠した。
潰したんじゃない、隠したんだ。
一瞬ひやっとしたがな。
「も、もう見てないって!なんでそんなに怒るんだよ!?」
一度は可愛げのない悲鳴を上げたラグナは、視界を塞がれているだけだと理解したらしく今は落ち着いている。
眉を八の字に下げて背後で無言の圧力をかけるスコールにぐすぐすとしつつも、本格的に泣いていないので安心した。
『スコール、手を離してやれ』
「………………」
最高潮に不機嫌だ、とでも言うようにむっすりとむくれるスコールの手を取る。
そしてラグナの解放を求めてみれば、微かに俺を上から下まで眺めたあと、よしと頷いてから離してくれた。
うんうん。
さっきも言ったが聞き分け良いな。
「◎、…」
「………」
『ん、』
また突拍子のないことをされるんじゃないかと俺の隣に退散したラグナは、ぎゅっと服を握る。
スコールはと言えば、俺に取られた手を見つめゆっくりと握り返してきた。
……あぁ…なんか疲れるけど…いいな。
荒んだ大人の心が癒される感覚がする。
ほわっとした胸の暖かさに目を細めて、俺は静かになっている二人に笑いかけた。
『じゃ、買い物行くか』
疲れつつも、
二人のこれでもかというほど輝いた表情と言ったら…
本当になごむわ。
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