噂の火竜





魔法屋から出て街を歩いていくルーシィは小さく舌打ちを響かせ、不機嫌そうに眉を寄せると何かに腹を立てているのか足早に進む。



「ちぇっ、1000Jしかまけてくれなかったー」


先程の魔法屋で値引きが上手くいかなかった事を思い出して更に苛立ったのか、声を上げて近くにあった看板に八つ当たりをし始め蹴り飛ばす。



「あたしの色気は1000Jかーッッ!!!!」


道行く周りの人々は可愛い容姿とは裏腹に次々と看板を蹴り倒していくルーシィにびくりと震えた。

いつの間にか彼女を避けるように人々は避けて道を作っているが、当の本人は全く気づいていない。


まだ他に八つ当たりをしようかと苛々していると、ルーシィの視界に女性が黄色い声を上げて甲高く叫んでいる光景が映った。

当然、その女性たちが何に騒いでいるのか分からないルーシィは訝しげな表情を浮かべて目を凝らす。



「?何かしら、」


不思議でたまらないルーシィが目を細めて観察していると、そんな彼女の隣を風を切るような物凄い勢いでかけていく女性たちがいた。


興奮気味に声を高くさせる女性は、知り合いの女性たちを早く早くと急かし走る。



「この街に有名な魔導士様が来てるんですって!」


一目散に駆けて行き遠くの女性の群に混じる彼女たちの頬は紅潮していた。



「火竜様よーっ!!」


そんな彼女たちが大きく発したその名前に、瞼を薄く閉じるようにしていたルーシィはぴくりと反応して目を瞬かせる。



「火竜!!?」


明るく輝く表情と好奇心旺盛な瞳で空を見上げた彼女は胸を高鳴らせた。

ぱん、と手を合わせて慣らすと、"火竜"という存在を思い出し驚きと喜びに顔を綻ばせる。



「あ…あの、店じゃ買えない火の魔法を操るっていう……」


そう、彼女の言う通り、"火竜"は店で買う事の出来ない火の魔法を意のままに操る珍しい魔導士なのだ。



「この街にいるの!?」


滅多に見る事の出来ない、というより雑誌などでしか名前を耳にしないその人物に会えるというのは、かなり運の良い事である。


まぁ所謂、超有名人物であるその火竜が実際に見られるのは機会は今しかないと言っても過言ではない。


暫く感動していたルーシィは大騒ぎになっている女性たちに視線を戻す。



「へぇ〜、凄い人気ねぇ…」


にやり、と笑ってその大群を見る彼女の表情は何とも言えないものである。



「かっこいいのかしら、」


そう下心を覗かせる言葉を呟きながらも、興味津々のルーシィは走り去る女性たちに混じり、火竜と騒ぐ大群の中に入っていった。






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