ふわふわのスポンジ、たっぷりのクリーム。ケーキスタンドに乗せられた数種類のケーキ。可愛いを詰め込んだような店内。女性客が店内に集中しているが、その中で人目を引くカップルがいた。何故か、理由はいくつかある。一つ目はカップルの男の顔がいいということ。二つ目はテーブルに積み重ねられた皿だ。他のテーブルには多くとも二皿程であるが、そのテーブルには軽く倍は置かれていたのである。
「はい、あーん」
そんな周囲の好奇の視線を特に気にすることもなく名前はフォークで刺したケーキを新開の口元へ運ぶ。そして新開は何の迷いもなく口を開き、差し出されたケーキを食べる。その様子に名前は頬を緩めた。好いている男の喜んだ顔は見ていて心地よいものに決まっている。それだけでここに来た甲斐もあるというものだ。
「……まあ私はそんなに甘いもの好きじゃないんだけど」
「ん、何か言ったか?」
「何でもなーい」
名前は甘いものがあまり好きではない。が、人並みには好きだと思っているし、何よりも恋人の幸せそうな表情がこんなに間近で見られるのだ。それを見ているだけで幸せな気分に浸ることが出来るというものだ。そして名前は再び新開へフォークを差し出す。
「美味しい?」
「美味しい」
満足げな声色で名前は新開へ問いかける。新開は嬉しそうな表情と声ででそれに答えた。暫くは黙々と同じような動作を繰り返すだけであったが、不意に新開が何か思いついたような顔をした。
「あーん」
「!?」
「ほら、あーん」
語尾にハートマークすらつくような甘い声色で名前にフォークを差し出す新開。名前は突然のことに驚愕と羞恥の入り交じったような表情を浮かべていた。しかし数秒の後に決意を固め、口を開いた。恥ずかしさのせいか瞳はしっかりと閉じられていたけれども。そして新開の「いい子」という言葉を耳にしつつケーキを咀嚼する。不意に新開の指が名前の唇をなぞる。名前はぴくり、と体を震わせ閉じられていた瞳を開ける。
「付いてた」
笑う新開に名前は顔を赤くし、わなわなと震える。そして照れ隠しのように目の前のケーキを口へ運んだ。