王子も姫もいない夢

リヴァハン


グラスが触れ合う時の共鳴のような、甲高い音が好きだ。以前奴にその話をしたら理解不能と言った顔をされたが。
ハンジの神経質な性分を理解してるのは俺を含めて何人いるだろうか。自由奔放に過ごしてるように見えて、背負ってきたものであいつの手足はがんじがらめだ。足を止めようとすると恨みがましく囁いてくる癖に前を向けば捨てられたくないと後ろ髪を引く。もうとっくのとうに踏み越えた屍の数を数えるのはやめていた。俺もあいつも進んだ分だけ仲間を失っている。あいつの夢見が悪くなった原因も、同期が全員戦死してからだ。
ふとした瞬間に足が竦む恐怖を俺もあいつも、いやこの兵団に長くいるやつなら誰でも知っている。この間には仲間がやられた。次は自分の番かもしれない。自分が生き延びれても全員が生き残るなんてあり得ねぇ。時にはその恐ろしさに壊れるやつもいる。素直に怖いと吐いてしまえば楽になれるかもしれねえが幹部になりゃそれも許されない。ため息の代わりにもう一度喉を潤した。
今、落ち着いて寝息を立てるハンジには部屋に入ってきた時のような獰猛さは見られない。寝てるんだから当たり前か。グラスにワインを注ぎながらひとりごちる。血走った目で意味のわからねぇ事を口走るハンジにワインを無理やり飲ませたのが半刻ほど前。悪い夢を、大方昔の夢を見たあいつは手が付けられないくらい暴れた。初めてその時のハンジを見たときは何故か俺まで苦しくなった。今となっては事務作業のように酒を口に含ませ酔いやすいあいつが夢も見ずに寝るのを待つだけだ。考えても答えなんか出ない。
二人分のグラスに並々とワインを注ぐ。どうせ酔えない。煽るだけ煽って潰れてしまいたかった。あいつが見る夢を俺が代わりに見たかった。乾いた心は夢すら見れねぇ。一人でグラスをぶつければ甲高い音が部屋に響く。木霊する不協和音はまるで俺とあいつのようだった。


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