He knows

リヴァハン

 リヴァイは今日も不機嫌そうに畏敬の念を向ける人の群れを通っていく。眉間に皺を寄せ、睨みつけるように前だけを見ながら歩くのは昔からの彼の癖だ。口下手で無愛想な奴だからしばし誤解されるけど本当は実際に機嫌が悪いときはそんなにない。
 しかしいつもと変わらないように見えて彼は今日、実際に不機嫌だった。それを分かって、私は話しかける。

「ねー! リヴァイ見てよこのデータ! また巨人の新しい動作が見られたんだ!」

「うるさい。黙れ」

「そんな事言うなよ。私とお前の仲でしょ?」

 一気にまくし立てるように舌を動かせば、殺気に似た鋭いオーラが私を抉る。付き合いたての頃だったら息が止まってだろうな。今は全然気にならないけど。リヴァイは煩わしそうに舌打ちして、また歩き出した。最早顔も向けないリヴァイと並んで歩く。

「ついてくるんじゃねぇ」

「たまたま目的が一緒なだけだよ。エルヴィンのとこ行くんでしょ?」

 明日からの壁外調査に備えての報告書の提出。リヴァイはきっと作戦の確認。もう一度舌打ちしてリヴァイは抵抗を諦めた。相槌どころか反応もしない奴相手に喋る巨人談義は些か退屈だけれど仕方がない。これは私のお呪いだ。ぺらぺらとへらへらとできるだけ軽薄に、相応しくないくらい浮かれて喋ればそのうち彼は根負けしていつもの台詞を零すはずだ。それに返す言葉もお決まりで、それが私のお呪い。ジンクスなんて言っていいか分からないけど私たちが初めて壁外に出た時からの勝手な習慣。
 生きて帰ってくるように。人類最強でも死ぬときは死ぬ。だからそれが私より後でありますように。巨人に向ける愛とはまた違った愛であることには気づいている。でも言うほど無垢ではなくなってしまったから。
 声にならない感情をお呪いに込めて自分の中のお決まりの台詞を彼と掛け合うのだ。
 
 しかし今日は中々言わないなぁ。そろそろエルヴィンの部屋についちゃうってのに。無理矢理言ってと願う事は簡単だし、言ってしまおうか。口に出しかけた刹那ようやく彼が言葉を紡ぐ。

「本当に一人でうるさい奴だな。巨人だってお前を見たら逃げ出すだろうよ。殺したって死なねぇ面してるしな」

 リヴァイの発したフレーズに満面の笑みで頷く。殺したって死なねぇ。そう、そうだよ。私は死なない。だから、あなたも。

「リヴァイだって死にそうにないくせにー。私といい勝負なんだからね」

 頭をくしゃくしゃと撫でれば叩かれて距離を置かれる。
 生きて帰ろうねリヴァイ。追いかける背中は小さくて広かった。



 ……また前を向いた彼が密かに零した言葉を私は知らない。


「素直に死なないでって言えねぇのかあの馬鹿」




[ 72/77 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -